しゃもじこわい

 その後、ぎこちないながらも、マシロとタキを通して会話をする6人。色んな味のもみじ饅頭や変わり種のグルメをシェアしたりしながら歩いて行く。

 最初のうちは全身の筋肉をガチガチに固まらせていたタクマも、方言美少女3人に「すごかね~」などと上腕二頭筋をペチペチされて満更でもなさそうな顔をしている。

 遠目に見える浦に建つ朱の大鳥居と色づき始めた山々が良い風情である。そうこうするうちに、有名な大杓子の前まで来ると、今度はオタク気質のトオルが雄弁に語り始めた。


「江戸時代に入って世情が落ち着いてくると、庶民の間でも旅行が流行り始めたんだ。お伊勢参りとかね。厳島神社にはこれといった土産物がなかったから、誓真さんという僧侶が夢で見た弁財天の琵琶の形から思いついて島民に木工品の作り方を伝えて特産にしたんだって。井戸作ってインフラも整備して、すごい人だよね」


 また始まった、と呆れ顔の男子2人に対し、女子は優しくウンウンと頷いている。そういえばトオルは広島土産や厳島神社の由来、その他細かい観光スポットなど、自作パンフレットまで作って部で配るほどの熱の入れようであった。

 横目で女子を気にしているタクマの意を汲んだマシロは、自分の好奇心もあって、タキに話しかけた。


「そういえば、みんなの学校は修学旅行で広島って珍しくない?うちも人のこと言えないけど」


「ん~……そうやなあ。最終目的地は島根っちゃけど」


「島根?渋いね」


「そう?年に1回みんな集まるよ」


 首を傾げたマシロに、両手に饅頭を持ったサヨリが答える。細身であるのにさっきから食べ通しである。どこに入っていくのだろうと考えながら、マシロは尋ねた。


「年1で修学旅行なの?」


「いや、なんていうか……」


「あ、ほら!あれ!研修旅行ってやつ?」


 言葉を濁したサヨリの後を引き継いで、ハヤセがふわふわの笑顔で答える。思わず癒されかけるが、謎は残る。どうやら彼女たちは彼らのような修学旅行生ではないらしい。


「ああ、行くのせからしか(めんどくさい)ね。ここで遊んでたい」


「そうやな~」


「しゃあしか(うるさい)親戚ん集まりみたいなもんばいね」


「遅れたら絶対はらかかる~(怒られる)よね」


「もう遅れとーばい」


 すっかり地元の言葉できゃいきゃいと笑いさざめく女子たちに、3人の男子高校生はそれ以上の質問をすることが出来ず、手に持った饅頭をもぐもぐと噛み締める。

 こんな時、気の利いたことを言えれば、男だけでつるんでいることもないのである。向こうからやってきてくれた女の子は、いわば奇跡なのである。


 尊さのあまり拝みたい気持ちになっていると、道の向こうからガラの悪そうな学生の集団がやってくるのが見えた。

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