もみじまんじゅうこわい
鳥尾巻
まいごこわい
10月某日。男子高2年の3人組、『健康促進部』の部長マシロ、副部長のタクマ、部員のトオルは、修学旅行で広島に来ていた。
厳島神社に参拝後、自由行動で宮島の表参道商店街をぶらついていたが、クラスのグループからはぐれた3人は、偶然はちあわせてとりあえず一緒に行動することにした。
「広島と言えば……?」
マシロは黒縁眼鏡の奥の糸目をキラリと光らせて、他の2人を見る。金髪頭で筋トレが趣味のタクマは、大きな体に見合わず小心なので、はぐれたことを気にしてキョロキョロしている。
「うーん……なんやろな。他の人たち探さんでええの?」
「そのうち見つかると思うよ。そんなに広い場所じゃないし」
トオルは茶色の天パを神経質そうにかき上げながら適当な返事をする。神経質ではあるが、超絶マイペースなので、自分が脅かされない限りあまり他人の動向を気にしたりはしない。
素直なタクマは安心したように腹直筋から力を抜いて、商店街の土産物に目を向けた。
「まあ、それもそうか。集合時間までに戻ればええもんな。やっぱ広島といえば、もみじ饅頭やな」
「牡蠣もあるやろ」
「おっ、それもええな」
どこからか美味しそうな焼き牡蠣の匂いも漂ってくる。小遣いの使い途について思いを巡らせ目を輝かせるマシロとタクマとは対照的に、トオルは眉をひそめて唇をへの字に曲げた。
「僕、牡蠣苦手。あんことかもあんまり……」
「トオルは好き嫌い多いな!」
「うるさいな。苦手ってだけで食べられない訳じゃないよ」
「屁理屈言うなや~。ほれほれ、じゃあ、牡蠣食べに行こうや~」
「いやだ」
タクマの肉厚生牡蠣の如き掌でバンバンと背中を叩かれたトオルは、ますます嫌そうな顔でそっぽを向く。3人が小路の真ん中でギャアギャア騒いでいると、後ろからクスクスと笑う声が聞こえて来た。
「お兄さんたち修学旅行生?」
涼やかな声に振り向けば、後ろの土産物店の店先に、紺のブレザー姿の女子高生が3人立っていた。全員それぞれにタイプの違う美人で、女性慣れしていない男子高校生たちは途端に挙動不審になる。
「あ、えっと、はい。そうです」
人見知りの2人に小突かれる形で答えたマシロは、それきり言葉に詰まってモジモジする。リーダー格と思われる、淑やかで落ち着いた雰囲気の女の子が長い黒髪をさらりとかき上げて、自己紹介をした。
「私、タキ。で、こっちがサヨリ、後ろにいるのがハヤセね。福岡から来たと」
「僕はマシロです。金髪でデカいのがタクマ、天パがトオルです。名古屋から来ました」
普段、僕などと言わないマシロだが、美少女3人の前では少々気取ってみせる。タキの隣にいたサヨリはショートボブのちょっと気の強そうな猫目の女の子で、2人の後ろに隠れるようにしていたハヤセは、ふわふわのセミロングで垂れ目の大人しそうな女の子。
その後、タキの提案でなぜか一緒に商店街を回ることになり、3人はドキドキしながら頷いたのだった。
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