今夜はナニでコメ食べよう?

加藤よしき

第1話 白米+サンマのかば焼きの缶詰

 

 はじめに

 作中の「私」は26歳の女性である。身長は170㎝、体重は62kg。名前は加藤よし江といって、作者の「加藤よしき」とは別次元に存在している。本編の私を女性にしたのは、せめてテキストの中でくらい自分の理想の姿になりたいからだ。

 なお作者の「加藤よしき」は37歳の中年男性で、乱れた食生活のせいで27歳くらいに糖尿病をやって死にかけたことを明記しておく。何が言いたいかと言うと、白米のドカ食いは節度を持って楽しみましょう。


 私は白米が大好きだ。どれくらい大好きかと言うと、わりかし大事な資料をPCで作っているこの瞬間すら、今日は何で白米を食べるかを考えてしまうくらい、白米が大好きだ。特に白米をドカ食いするのがたまらなく好きだ。

 白米をドカ食いするのは良くないと人は言う。それは分かる。血糖値がバグって、大変なことになってしまう。そんなの私だって承知の上だ。承知の上で、私は今夜も白米をドカ食いする。さてさて、今夜のおかずは何にしようか? 

 給料日まであと1日。冷蔵庫の中は冷やした麦茶と氷、そして昨日に炊いて余った白米2合のみで、限りなく空っぽに近い状態だ。所持金は510円で、口座の方は210円。口座からは細かすぎて下ろせないし、そもそも終業時間を考えると、引き出しに行くことすらできない。今は16:30で、終業時間は19:00で、残業をプラスしたら21:00ってところか。コンビニならギリ引き出せるかもしれないが、手数料だけで口座がゼロになる(冷静に考えると、自分の金を引き出すのに手数料が必要なんて、まったく狂った社会だと思う)。

 ということは、今夜のおかずは510円で買えるもの。それも会社帰りの近所のスーパーで買えるものに絞られる。はてさて、今夜はナニで米を食べよう? 

 ……そうだ、アレにしよう。もしくはアレだ。第二候補まで決まった。



 会社を出ることができたのは21:15。おおむね見積通りの時間だ。そのままスーパーマーケットへ向かう。野菜、鮮魚、精肉コーナーは素通りだ。食材を買うなんて贅沢な真似はできない。こちとら510円しか持っていないし、仕事でパソコンを見つめ続けたせいで目がショボショボで、肩と腰は悲鳴を上げている。こうなってくると、もはや何かを作る気力も体力も無い。残された体力は、冷蔵庫の中の白米を電子レンジでチンすること。そして明日に備えて、お風呂に入るために取っておかなければ。体力の逆算は社会人の必須スキルだ。

 そんなわけで体力を温存するためにも、出来合いの料理を探すしかない。第一ターゲットは、お惣菜コーナーの肉料理だ。チンジャオロースか、ハンバーグ。肉に合う濃い味のものが欲しい。

 しかし、21:15という退社時間は遅かった。チンジャオロースもハンバーグも無い。春巻きも、野菜炒めも……なんと、全滅だ。お惣菜コーナーは空っぽで、半額になったサラダしかない。サラダで米が食えるかは、さすがに微妙なところだ。食えなくはないが、美味しくはない。いや、まだ美味しいと思える境地に私は達していない。白米は全能だから、私が未熟なだけ。白米修行が足りないのだろう。とりあえずサラダはなし。だって私は美味しく米を食べたいのだ。

 美味しく白米を食べたい、これは私の唯一、譲れない贅沢だ。もちろん、ここでいう「美味しい」は、他人がどう思うかなんて関係ない。私が美味しいと感じることができればイイのである。貧しい食事だと笑われようが構わない。とにかく私が美味いと思うことが大事なのだ。こんな毎日だから、せめて、それくらいは満足したい。

 ということで、第一候補は消えた。お惣菜コーナーを通り抜ける。こうなったら第二候補、2合の米を費やすのに相応しいオカズは……缶詰だ。

 缶詰は365日、24時間、何があろうと味の変わらない、最強の補欠打者である。おまけに酒のオツマミに使われることを意識しているせいか、味の濃いものが多い。つまり白米にも抜群に合うのだ。

 缶詰コーナーを見渡して、まずは肉か魚を選ぶ。米に合うのは、間違いなく魚だ。その中でも最強と言っていいのが、マルハニチロから出ている「サンマのかば焼き」である。骨まで食べれるほど柔らかい魚肉と、どろりとした濃い味のタレ。そして、お値段は362円、税込み398円! バッチリ、余裕だ。



 というわけで、今夜の米のお共はサンマのかば焼きの缶詰となった。家に帰ると、まずは風呂を溜め始める。次に晩ご飯の、いや、白米ドカ食い祭りの準備だ。

 電子レンジでチンした熱々の米を茶碗によそって、缶詰を開ける。さんまは常温で行く。これが熱い米を程よく冷やしてくれて、ドカ食いにベストな温度になってくれる。まずはさんまのみで、0.5合。次にさんまの身と、あのドロッとしたタレを茶碗の米にかけながら1.5合。かきこんでいく。ときどき喉につまりそうになりながら、ドカっと食っていく。

 これが美味い。涙が出るほど。呼吸ができないから涙が出るのか、美味いから涙が出るのか、それとも別の理由で涙が出るのか。それは分からない。けれど美味いことだけは間違いない。ああ、やはり米はドカ食いするのが最高だ。

 ドカ食い祭りが終わったら、片付けだ。缶詰は水で流すだけで綺麗になるので、洗うのは実質、茶碗だけ。このシンプルさも缶詰をおかずにするメリットの一つだろう。あとは風呂に入るだけ。この頃には血糖値がバク上がりしたせいか、心地よい眠気が襲ってくる。風呂に入って、布団に潜り込むと……即まどろみの世界。この瞬間、たしかに自分は幸せだ。どれくらい幸せかと言うと、

 「ふぃ~~さっさと寝て、明日も頑張るかねぇ」

 勝手に口から出たこんな言葉が、浴室に響き渡ってしまうほど。

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