第4話 竜目石と狂竜の噂
※この大陸の説明がわかりにくかったら地図見てください💦
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ギルド長は、羊皮紙に描かれた地図をテーブルの上に広げた。
横長の楕円形に似た大陸には、北と中ほどにT字型の山脈が連なっている。
この山脈に分断される形で、西側に二か国、東側に五か国の国が描かれている。
巷に溢れている旅人用の地図に比べると、とても精巧な地図だ。
ラシュリの母国であるイリス王国は東の五か国の一つで、北側と西側を山脈に囲まれた北国だ。
国境を接する南には緑豊かなモラード王国があり、さらにその南には、この竜導師ギルドの本部があるベルテ共和国がある。この三国が縦に並んでいる。
三国の東には、北から南に流れる大河を挟んで、北にジュビア王国。南にレラン王国がある。
「────正規の売買でも、裏のルートでも、ここ最近、異常な数の竜目石が集められているのが、ここ、ジュビア王国です」
ギルド長はそう言って、広げた地図の東端にコツンと指を置いた。
彼が指さしたその一点を見つめ、ラシュリはスッと目を細めた。
「まさか……ジュビア王国は、
ジュビア王国は、イリス王国のすぐ東にある。
昔から国土拡大の野心があり、国境を接するイリス王国やレラン王国と小競り合いが絶えないという話は、世情に疎いラシュリですらよく耳にしている。
「ジュビアのことだから無いとは言えんが、まだ確証がある訳ではない。それに……例え
「ならば、なぜ竜導師ギルドは大騒ぎをしているのです?
眇めた目に剣呑な光を滲ませて、ラシュリはギルド長を見つめる。
飛竜についての研究では甲乙つけがたい両組織だが、飛竜を神の使徒と崇め対話する〈飛竜の塔〉と、竜目石や飛竜で商売をしている竜導師ギルドでは、思想的に対極を成している。
「……確かに、我らは
万が一、
ギルド長は唾を飛ばしながら力説し、拳をドンっとテーブルに叩きつけた。
激高したギルド長の姿に、ラシュリは思わず目を瞠った。彼らがどんな思いで世の動きを注視しているかなど、今まで一度も考えたことがなかったからだ。
ラシュリは恥じ入りながら、静かに頭を下げた。
「どうやら私は、竜導師ギルドに偏見を持っていたようです。あなた方の理念を知りもせず、失礼な物言いをしました。どうかお許しを」
「……いや。こちらこそ、声を荒げて申し訳なかった」
テーブルを叩いた拳をもう一つの手で隠しながら、ギルド長も首を垂れた。
「あのっ、仲直りしたところで、俺からも質問があるんスけど……ラシュリさんの探し物がジュビア王国にあるかもって、ギルド長が思う理由は何なんスか? その辺を詳しく教えてくれませんか?」
部屋に漂う気まずい雰囲気を蹴散らすように、ソーが質問した。
〇〇
「ラシュリさんは、さっきのギルド長の話、どう思ったっスか?」
食堂で遅めの朝食をとるラシュリの前には、ソーとシシルが並んで座っている。
二人を誘ったつもりはなかったのだが、どのみち彼らとはこれから行動を共にする事になる。話し合いは必要だった。
「黒魔道の話か?」
ラシュリはソーを見返して、軽く肩をすくめた。
「私の探す竜目石がジュビア王国にあると言う理由には、少し弱いな。でも、狂竜の噂は気になった」
あの後、ギルド長は
基本、聖獣である飛竜は、動物のように群れることはない。人が騎乗している場合には集団行動をとることもあるが、ジュビア王国の国境付近に現れるという黒色の飛竜は、誰も騎乗していないのに集団で飛び、町や人を襲うらしい。
その異常な行動を見た者達の間では、『ジュビアの黒魔道師が飛竜を操っている』という噂が囁かれている、というのだ。
『もしも、飛竜を操る黒魔道師がいるならば、きっと力のある竜目石を欲しがるに違いない』
というのが、ギルド長の言い分だった。
「あー、俺もそう思う。だってさ、そもそもこの大陸に黒魔道師なんているのかな? 海の向こうの話じゃないの?」
ソーは黒魔道師の存在そのものに懐疑的だ。
「あ、あのね、ジュビア王国の人って、もともと東の海を渡ってきた民族なんだって。だから、彼らにとって黒魔道は、僕らより身近な力なんじゃないかな?」
遠慮がちに、シシルが口を挟んでくる。
「へぇ、そうなのか?」
「そういえば……私もそんな話を聞いたような気がする」
ソーが感心したように目を見開き、ラシュリが過去の記憶をたどりながら頷くと、シシルはパァッと顔を輝かせた。
「だよね! ジュビア王国を作った人たちは、故郷を追われて来た人たちなんだ。だから、自分たちの領土を広げたいって野心があるのかも! 黒魔道師だって、海の向こうから呼び寄せたとかじゃなくて、最初から彼らの中にいたのかも知れない。その力が強まって、もしかしたら、今回の狂竜の騒動になったんじゃないかな?」
持論を力説するシシルに、ラシュリは微笑んだ。
「シシルは博識だな。剣の腕がなくても役に立ってくれそうだ」
「え、俺は? 俺も役に立つよ」
「ああ。ソーは剣の腕に自信があるらしいから、その腕で、シシルの身も守ってやってくれ」
「おう! まかせとけって!」
ラシュリは皮肉を込めたつもりだったが、ソーが嬉しそうに胸を叩くのを見て、少しだけ考えを改めた。
「これからしばらくの間、私たちは旅仲間だ。二人とも、よろしく頼む」
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