第3話 竜導師ギルドの凸凹コンビ
「砂漠とは、果てしないものだな……」
客室の窓から外を眺め、ラシュリはため息をついた。
雲一つない青い空。果てしなく続く薄茶色の砂漠。
わずかな濃淡はあるものの、ここにいると、世界には色が二つしかないように思えてくる。
日干しレンガで造られた巨大な円塔────竜導師ギルドの本部もほぼ砂漠と同化していて、見つけるのにとても苦労した。
塔の足元にある小さな
ラシュリのいる最上階の部屋からは、緑に囲まれたとても小さな楕円形の
「結局、一晩何の連絡もなし、か」
遥か北のイリス王国から、大陸最南端のベルテ共和国まで、
到着してすぐにギルド長に会えたのは良かったが、協力要請は棚に上げられたまま一晩が過ぎてしまった。今日もこのまま待たされることになりそうだ。
「食堂に下りて、朝食にするか」
ラシュリは上着を肩にひっかけた。
古めかしい木の階段を下りていると、開いた窓から塔の内側が見えた。
昨日は暗くて気づかなかったが、この日干しレンガの塔には中庭があるらしい。
砂漠の風から守られた円形の中庭は、たくさんの草木が緑の枝葉を伸ばしている。
(きれいだな)
緑の草木に癒されていると、ふいに、巫女長の青ざめた顔が脳裏に浮かんだ。
(巫女長さまは……何をあんなに恐れていたのだろう?)
ラシュリは、そのことがずっと気にかかっていた。
〈炎の竜目石〉は、本当に恐ろしい
そもそも、恐ろしい飛竜とは何だろう?
誰か見たことがあるのか? 迷信じゃないのか?
見たこともない竜目石を探せと言われて、ラシュリは正直困惑していた。
(ま、窮屈な神殿から出られた事には感謝するけどさ……)
神殿の孤児院で育ったラシュリが初めて町の外へ出たのは、十五歳で巫戦士となった後だった。それも、
神殿はひどく閉鎖的な場所だ。たまに外部から客人が来る事はあるが、巫女も巫戦士も下働きの人間も、基本、女だけで構成されている。
女だけの社会にも権意欲のある者はいて、その中には、他人を蹴落としてでも上に上がろうとする者もいる。
そんな彼女たちや、彼女たちに劣等感を抱く自分にも、ラシュリは心底うんざりしていたのだが────。
(逆に男ばかりなのも落ち着かないな)
竜導師ギルドへ来てからほとんど女性を見かけない。ラシュリが見たのは、食堂の厨房で働くほんの数人だけだった。
「────使者さま! 〈
ふいに、後ろから声をかけられた。
振り返ると、訓練生らしき青年が立っていた。彼は膝に両手をついて、ハァハァと息を切らせている。きっとラシュリを探してあちこち駆け回ったのだろう。
「そうですが、私に何か?」
「執務室までおいで頂きたいと、ギルド長が」
「わかりました」
要請の認可が下りたのかも知れない。
ラシュリは青年に礼を言い、ギルド長の執務室に足を向けた。
〇〇
「失礼します」
ラシュリが執務室の扉を開けると、ギルド長の机の前で二人の青年が振り返った。
(ん?)
見覚えのある青年二人の登場に、ラシュリは眉をひそめた。
「────昨日お話したように、我が竜導師ギルドは、始まって以来の大騒ぎになっておるのです」
ギルド長の勧めで、ラシュリは長椅子に座った。
ローテーブルを挟んで向かい側に座る偉丈夫、白髪に白髭のギルド長の背後には、ソーとシシルが手を後ろに組んで立っている。
「簡単に言えば、ギルドは人手不足で、状況だけで言えばあなたの要請には応えられない。ですが、我らが躍起になっている竜目石の件と、あなた方〈
そこでギルドは、二人の青年を無償であなたに貸し出すことにしました。訓練を終えたばかりのひよっ子と、もう一人は未だ訓練生ですが、二人は共に優秀な青年です。彼らはきっと役に立つでしょう。各地のギルド支部にも、あなたに力を貸すよう通達しておきます」
ギルド長の話を聞きながら、ラシュリの青い瞳はだんだんと細くなっていた。
「……無償で貸して下さるのはとても有難いのですが、その二人は、自分の身は自分で守れるのですか?」
「それはもちろ────」
「俺はこう見えて、モラード王国の下町で育った孤児だ。人生の荒波に揉まれてるっちゅう点ではアンタよりも経験豊富だし、剣の腕にも自信はある。若いから未熟だと決めつけるのはやめてくれよな!」
「やっ、あっ、あのっ、ぼっ、僕はその……剣の腕には自信ないですっ!」
傲慢に自分の能力をアピールするソーと、不安そうにオドオドするシシルを背後に従えたギルド長は、困ったように額に手を当てている。
ラシュリは肩をすくめて小さくため息をつくと、ギルド長に目を向けた。
「申し出は有難くお受けします。が、出来れば、竜導師ギルドが問題視している竜目石の件について、詳しく教えてもらえませんか?」
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