第7話
「魔力にもまだ余裕はあるし、もう少しだけ戦ってみるか」
討伐証明のために倒したゴブリンの耳を回収して、再び探査魔法を走らせながら森を歩いていく。
そうしてしばらく森の中を散策していると、不意に遠くで何かの反応を捕らえる。
「これ、ゴブリンじゃない……。それに、オークにしては明らかに反応がおかしい」
その反応は明らかにゴブリンやオークよりも強いモンスターのもので、足を止めた俺に緊張が走る。
「この森に、こんなに強い魔物は居ないはずなのに……。いったいどうなってるんだ?」
まだこちらに気付いていない様子のその存在に冷や汗を流しながら、俺はゆっくりと後ずさる。
「こんなの、俺ひとりじゃ対処できないな。ギルドに戻って応援を呼ばないと……」
できるだけ音を立てないように注意しながら振り返った時、探査魔法がさらに何かの反応を捕らえた。
「キャアアアァァッ!!」
遅れて聞こえてきた悲鳴に、俺は反射的に声の聞こえる方へと走り出していた。
このまま一人で駆けつけても、俺にできることは少ない。
むしろ返り討ちに合う可能性の方が高いだろう。
全力で逃げろと叫ぶ本能を理性で無理やり押さえつけながら、俺は森を走り続ける。
木々の間を走り抜けた俺の目の前に現れたのは、巨大な体躯をしたモンスターとそれに対峙するひとりの少女だった。
息も絶え絶えな少女とは対照的に、モンスターはその巨体を震わせて威嚇を繰り返している。
「オークロードッ!? どうして、こんな所に?」
モンスターの姿を見た瞬間、俺は驚きに足を止めて目を見開く。
オークロードとは、オークから派生した上位モンスターだ。
その身体はオークの数倍は大きく、強さはさらにその数倍ほど跳ね上がる。
ゆえにC級依頼のオークと違い、オークロードの討伐依頼はA級に数えられている。
「だけど、エギナの森にはオークロードなんて居ないはずなのに。いったい、どこでこんなに成長したんだ……?」
オークがオークロードに変わるには特別な条件があり、その条件を満たさないようにギルドが定期的にオークの駆除依頼を行っているはずだ。
だけど現実に、オークロードは俺の目の前に存在している。
「もしかして、駆除から運よく逃げ延びていた個体なのか? ともかく、ギルドに報告しないと」
やっぱり俺だけでは、とてもじゃないけど勝てるような相手じゃない。
幸いなことに俺はまだ気付かれていないし、このままゆっくりと森を抜ければ……。
踵を返そうとしたその時、オークロードは目の前に立つ少女に向けてその腕を振るう。
「キャアッ!」
直撃の瞬間になんとか防御した様子の少女だが、勢いを殺すことはできずに後方へと吹き飛ばされていく。
そのまま背中から木に激突した少女は、意識を失い地面に横たわってしまった。
そんな少女を見て気色の悪い笑みを浮かべたオークロードは、彼女に向かってゆっくりと歩き始めた。
底辺術師のグリモワール〜役立たずと呼ばれた俺が英雄にいたるまで~ 樋川カイト @mozu241
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