第6話
エギナの森とは、グリーディスの東部に広がる広大な森の名称だ。
ゴブリンやキラービーなんかの下級モンスターが良く出現するこの森は、駆け出し冒険者たちの格好の修行場として使われている。
「ここに来るのも久しぶりだな」
俺たちもまだ駆け出しパーティーだった頃は、よくこの森で戦闘の腕を鍛えていた。
あの時はみんな今よりもずっと弱くて、次から次へと現れるモンスター相手に四苦八苦しながら戦っていた。
その時はまだ、俺と他のメンバーの実力に大きな差はなかったはずだ。
むしろ初級とは言え魔法が使える分、みんなから頼りにされていたような気がする。
「懐かしいな……。っと、感傷に浸ってる場合じゃないか」
思い出せば思い出すほど、辛くなるだけだ。
頭を振って思い出を振り払った俺は、気合を入れるように一度パンッと自分の頬をはたく。
「さて、仕事の時間だ。今の俺がどれだけ戦えるか、それを試さないとな」
気持ちを切り替えて森に一歩踏み入れると、冷たい風が俺の頬を撫でる。
しばらく進んでいると、やがて少し開けた場所に辿り着いた。
ここからはゴブリンの生息域だから、注意しないと。
探査魔法を発動させながらさらに歩いていると、すぐに生き物の反応を捕らえた。
それは子供ぐらいの大きさで、森の中を集団で走り回っている。
この反応は、間違いなくゴブリンだ。
あちらも俺の存在に気付いたらしく、こっちに向かって一直線に近寄ってくる。
「よし、やるぞ……」
杖代わりに腰に差していたダガーを引き抜くと、それと同時に森の奥から数体のゴブリンが姿を現す。
そのゴブリンたちは獲物を見つけたとばかりに声を上げ、俺を取り囲んでくる。
「グギャギャッ!」
そしてそのうちの一匹が、雄たけびとともに俺に飛び掛かってきた。
「炎よ、敵を撃て! ファイヤーボール!」
「グギャアァアアッ!!」
呪文を唱えればダガーの先から火の玉が飛び出し、空中に居るゴブリンの身体を一瞬で包み込む。
苦しそうに悲鳴を上げながらゴブリンは地面を転がり、そしてしばらくして動かなくなった。
黒焦げに焼かれた仲間を見て他のゴブリンが一瞬怯み、そして俺はその瞬間を見逃さなかった。
「大地よ、敵を穿て! ロックピック!」
その瞬間、俺を中心に地面が割れ、尖った岩が俺を取り囲むゴブリンたちの身体を貫いていった。
こうして俺の、ソロとしての初戦闘はあっさりと終わってしまう。
「さすがに、初級魔法でもゴブリン相手なら遅れは取らないか」
普通に詠唱さえできれば、魔術師にとってゴブリンなど敵ではない。
腐ってもA級パーティーに居たんだから、せめてこれくらいはできないとな。
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