第5話

「ともかく、俺ひとりで戦うのは初めてだから、しばらくは簡単な依頼を受けることにするよ」

「そうですか……。分かりました。では、頑張ってください」

 最終的に説得を諦めた様子のリースさんは、そう言って笑顔を向けてくれる。

「では、討伐証明としてゴブリンの耳を持ってきてくださいね。持ち帰ってきた耳の数で報酬の金額も変わるので注意してください。って、いまさらこんな説明は必要ないですね」

「いや、確認しないで失敗するより説明してくれた方が助かるよ。それじゃ、いってきます」

「はい、ご武運を!」

 リースさんに手を振られながら、俺はギルドを後にする。

 さて、それじゃあソロとしての初仕事だ。

 気合を入れ直して、俺は森を目指して通りを歩きだした。

 

 ────────

  ロイドさんがギルドを出ていくのを笑顔で見送って、私は頬を緩ませたまま目の前の書類に手を伸ばす。

 今にも鼻歌を歌い始めてしまいそうな私の背後に、ひとつの影が近寄って来た。

「やっほ、リースちゃん。なんだかご機嫌ね」

「あっ、クレアさん。別にご機嫌ってわけではないですよ」

 同僚で先輩受付嬢でもあるクレアさんは、私の様子を見ていたずらっぽく口元を緩ませる。

「へぇ、そうなんだ。お姉さんはてっきり、『お気に入りの冒険者と話せて嬉しい』とか考えてるのかと思ったよ」

「べ、べつにロイドさんはそんなんじゃないですから!」

「なるほど。リースちゃんのお気に入りはロイド君なのか」

「もう!  クレアさん!」

 からかってくる彼女に声を上げて抗議すると、彼女は全く悪びれる様子もなく笑う。

「あはは、ごめんって。……でも、ロイドくんも大変だね。彼、良い子なのに」

 どうやら、ロイドさんがパーティーをクビになった話はクレアさんの耳まで入っているみたいだ。

「まぁ、銀翼の双竜はこの街じゃ有名なパーティーだったからね。特にロイドくんは、悪い意味でも有名だったから」

 その言葉を聞いて、私は思わず唇を尖らせてしまう。

「ロイドさんは弱くなんてありません」

「いや、なんでリースちゃんが怒ってるの?  それに私だって、あの子が弱いなんて一言も言ってないでしょ」

 私の態度を見て面白そうに笑ったクレアさんは、少しだけ真面目な表情を浮かべて口を開く。

「実際、ロイド君の実力なら、どこのパーティーでも重宝されるでしょうね。戦う力こそそこまで強くないかもしれないけど、斥候や交渉役としては一流ね。まぁ、地味な役割だから今回みたいに誤解されちゃうかもしれないけど」

「そうなんですよ!  ロイドさんは凄い人なんです!  それが分からない人たちなんて、せいぜい苦労すればいいんです」

「こらこら。たとえ思ってたとしても、ここでそんなこと言ったら怒られちゃうよ」

 諭されて口元を抑えると、私は周りを見渡す。

 どうやら誰にも聞かれていなかったみたいで、私はほっと胸を撫でおろした。

「それじゃお仕事に戻りましょうか。リースちゃんも、ロイド君が居ないからって気を抜いてちゃ駄目よ」

 そう言って笑顔で去っていくクレアさんを見送って、私は気合を入れ直す。

 さて、私も頑張らないと!

 気持ちを新たにした私は、ギルドにやって来た冒険者さんと明るい笑顔で挨拶を交わすのだった。

 

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