エピローグ
「…キモイんだけど」
透の部屋で、かがりから借りた図鑑を読んでいると、急に辛辣なセリフが飛んできた。
見ると、仁王立ちしている舞がいた。
いつの間にか仲良くなっている二人。
何が起きたのか尋ねても一切教えてくれようとはしない。
「…かがりの本読んで、ニヤニヤして」
「…ニヤニヤはしてない」
本当に軽蔑しているかのような視線を送られて、思わずむっとする。
「透!なんでここにいるんだよ」
すると、キッチンで鍋の準備をしていた透が「えー?」と顔を出した。
「なんでって、かがりちゃん来るのに、男二人だけじゃさみしいでしょ」
「あんただけにかがりは渡さない」
「はぁ?」
急な対抗心を燃やされ、内心面倒になりながら立ち上がる。
舞に話しかけられるより、透と準備をした方がよさそうだ。
キッチン向かい、手を洗おうとすると、インターホンが鳴った。
「お、来たな」
出ようとすると、すかさず舞が割り込んできて先に通話のボタンを押す。
「…おい!」
「はいはーい」
『こんにちは』
モニターの奥から可愛らしい声が聞こえる。
『舞、先に来てたんだね』
「うん!今開けるね~」
そう言って、慣れた手つきでロックを解除する。
使い方がわかるくらい入り浸っているのか、と思いつつも、かがりも舞が来ることを知っていたのかと、少し寂しい気持ちになり、むっと口をつぐむ。
それを見た透は、「どした?」と顔を覗き込む。
だが、理由を言ったらダサいので、何でもないと首を横に振った。
しばらくすると、部屋のインターホンが鳴る。
もちろん、速攻で迎えに行くのは舞だ。
トコトコ部屋に入ってきたかがりは志貴を見つけるとにっこり「こんにちは」と笑った。
そして透にも丁寧に挨拶をする。
すると透はこそっと、さっきまでのあらましを告げ口する。
「志貴、舞ちゃんに全部取られてすねてるから慰めてあげて」
「え?」
「すねてない…!」
志貴はふいっと顔をそむけると、再びソファーの上に戻って図鑑を開く。
かがりは微笑んで、ちょこんと志貴の横に座った。
「勉強、してくれてたんだ」
読んでいた図鑑を見ながらかがりが志貴の顔を覗き込む。
すねてはいるものの、かわいらしい行動をされるとそうもいかない。
志貴はあきらめて、ペンギンのページをかがりに見せた。
「……かがりにペンギンが似合う理由もわかったよ」
「え?似合ってる?」
「ちゃんと生体を知るために、また一緒に水族館に行かないと」
「何それ」
かがりは楽しそうにコロコロ笑う。
「じゃあ、お腹が空いたら、あの喫茶店のナポリタンね」
「…険悪な雰囲気出したら、またクリームソーダ、サービスしてくれるかな」
「いやよ、そんなの」
そして図鑑のページをめくっていくと、スズメのページになった。
「…お父さん、会いたがってたから、今度一緒に行こう」
「あぁ。ハンカチも返さないと」
そう言ってかがりを見ると、彼女は優しい笑顔で志貴を見ていた。
おどおどしていた第一印象。
最初は“舞”と呼んでいた。
お互いの壮大な身代わり作戦が、こんなことになるなんて。
その愛しい彼女の手をそっと握る。
「…かがり」
すると彼女もきゅっと握り返してくれた。
これから先も、温かい、この体温を失わないように。
そっと腕に力を込めて引き寄せる。
顔を近づけようとしたとき。
「ちょっと!鍋は水炊きでしょ!」
「水炊き好きじゃないんだよね。味しないじゃん」
「アラサー女子は一番カロリーを気にしているの!」
キッチンで透と舞が鍋の味で言い争っていた。
二人でそちらを見て、ぷっと笑う。
「あの二人、いつからあんな感じなの?」
「知らない。俺も気が付いたらああなってた」
この二人のあらましはまた今度、ということで。
「ちょっと、ケンカしないでよ」
かがりは笑いながら仲裁に入った。
すると舞が泣きべそのマネをしながらかがりに抱き着く。
「聞いてよかがりぃ」
「はいはい」
さっそく舞にかがりを取られてしまったが、まぁ良しとしよう。
志貴は笑って立ち上がった。
fin.
身代わりお見合いの行方 sumi @amin3991
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