第10話 星を見る理由
そして放課後。私は特別教室へ向かった。がらがらと扉を開けると皆揃っていた。ちなみに私はわざと少し遅めに来ている。それは先に教室に入って後から誰か来ると緊張するし、一人一人に挨拶するのが面倒くさい。皆先にそろっていれば一回で済む、便利。
四人の様子を見ると秋雨さんは少女漫画を読んでいる。タイトルは「星と僕と君」、どんな内容なんだろう。気になるけど集中してるから邪魔しないようにしよう。夢見さんはあめを舐めていた。持ち込んでいいんだっけ。でもここならそもそもばれないか。薔薇園さんは本を読んでいる。ブックカバーがついているので何の本かはわからない。火暗さんはスマホをいじっていた。
私も席に着く。皆違うことをしているから変に気を使ってしまう。昨日張り紙をしてお願い部の宣伝はしているが、誰も来なかったらどうしよう。雑談でもしようかな。こういう時は適当にスマホでもいじっておこう。SNSアプリを開くとお父さんの誕生日が近いという表示が出ていた。二日後か。何か準備しておこう。恩返ししたいし。
チクタクチクタク。時計が時を刻む音が耳に響く。うーん。やっぱりそわそわする。私変なところで気を使っちゃうんだな。普通に話しかければいいのに。勇気を持って隣の秋雨さんに話しかけようとしたら
「誰かいますかー。」
と誰かがノックしてきた。私は「はーい。」と返事をしながら急いで立ち上がり扉を開ける。するとそこには茶髪ロングでメイクをした派手そうな女性が立っていた。
「ど、どうぞ!」
とその女性を席に案内する。彼女は私たちを一瞥してから席に着いた。初めての依頼者だから私も緊張する。
「単刀直入に訊くけど、ここは願いを叶えてくれるんだよね。」
真っ直ぐな目でいきなりそう言ってきた。確かに張り紙には「叶えたいこと、何でも募集!」と書いていたため彼女の言っていることは何も間違っていない。他の四人は応対してくれなさそうだったので私が代表して話をする。
「はい、そうです。それで今日はどういったご用件ですか?」
「私は1-3の
「これはご丁寧にどうも。私は1-1の照間アイリスです。」
1-3ということは今日の体育の時間にあっているはず。あ、私が初めにボール投げた時掠った人だ。怪我してないよね、大丈夫かな。そんなことは気にしていないように彼女は顔を赤らめながら続ける。
「それで相談なんですけど・・・私好きな人がいて。それでその・・・。告白の手伝いをしてほしいんです。私派手な見た目してるから勘違いされやすいんですけど、こういう経験がなくて。」
わお。見た目によらず丁寧だし、うぶそうで可愛い。これは私もしっかり向き合わねば。・・・といっても私に恋愛経験はないんだけど。多分。ここは丁寧にきいていくか。
「どういう風にお手伝いすればいいですか?」
「うーんと、それは・・・私の背中を押してほしいんです!」
犬山さんがそう言うと何を勘違いしたのか、火暗さんが立ち上がり彼女の背中を平手で軽く叩いた。犬山さんはびくっとしている。それを見て私は反射的に
「いや、そういうことじゃないですから!」
と大きな声でこてこてのつっこみをしてしまった。かああ、少し恥ずかしい。こんなことを人生で言うなんて考えてもなかった。すると火暗さんは「そうなのか?」と言ったあと、
「いやーわるい悪い。冗談だよ。緊張をほぐそうと思ってな。それに心理的にも物理的にも二重の意味で背中を押してやろうとしたんだよ。」
「は、はあ。」
犬山さんは苦笑いをしている。相談者に微妙な顔させてどうするんですか。私は心の中でもつっこみを入れる。ここはフォローしないと。
「犬山さん。びっくりさせてごめんなさい。それで背中を押すというのは応援すればいいということですか?」
「うん、この気持ちに踏ん切りをつけたくて。それで誰かに話したかったんです。友達や親に言うと茶化されたり変に期待されそうだし。そういう意味でここならちょうどいいなって思って。・・・迷惑ですよね。利用してるみたいで。ごめんなさい。」
「いやいや。そんなことないですよ。ぜひ応援させてください!」
「・・・ありがとうございます!」
そう言って彼女は吹っ切れた顔をして教室を出る前に一礼をしてから去っていった。
ふう、初めての依頼。なんとかなったな。彼女の願いが叶うといいな。
にしても私が犬山さんと話している間他の三人は何もしてくれなかったな。一応話は聞いているみたいだったけど。ここはいつのまにか恋愛漫画をしまっていた秋雨さんに話を振ってみよう。
「秋雨さんはどう思いました?」
「どうって、どういうこと?」
秋雨さんは少し焦った表情で尋ねてくる。
「犬山さんの恋が叶うといいなって私は思ってます。秋雨さんはそういう経験あったりするんですか?」
「・・・い、いや。ないけど。・・・・・・興味はある。」
うんうん、秋雨さんは普段クールに見えるからこそ、この反応がいじらしい。恥ずかしそうに目を伏せて髪の毛をいじりながら言う姿が愛らしいなー。すると薔薇園さんが「その辺でやめてあげなさいよ。」というような目で見てきたので、追及するのはやめた。
うーんっと大きく伸びをする。まだ時間はあるけど今日はもう誰も来なさそうだな。スマホで父親への誕生日プレゼントを検索していたら、お酒やグラス、ネクタイにハンカチなどが出てきた。うーん、どれもしっくりこないな。お父さんがお酒飲んでるところ見た覚えがないし、冷蔵庫にもなかったと思う。ネクタイもハンカチもあんまり使わなさそうだしなー。
気が付くともう6時になっていた。もうそろそろいい時間だから「解散しましょうか。」と言うと、その言葉を待ってましたとばかりに皆帰り支度を始める。もしかして皆誰かが帰ろうと言うのを待っていたのだろうか。それとも私がこの部のリーダーだと見なされているんだろうか。そういえばそのあたりのことを全然決めていなかった。私が言い出しっぺだから、皆自然とそう思っていたのか。ならこれからは堂々と部長として動いていこう。
今日も五人で帰ることになった。今更だけどこうやって五人で帰るのって結構目立つのではないだろうか。それに私たちは魔法少女であり勇者。それがこうして普通に下校しているのが何だかおかしくてくすっと笑ってしまった。それを夢見さんが見て
「何で笑ってるの?」
と訊いてきた。ああ、いいな。こういうの。本当に楽しい。
「何でもないよ。」
そう笑顔で答えておいた。夢見さんは一瞬首をかしげたが「ならよかったのー。」と笑顔を返してくれる。夢見さんは背が低く顔も幼く見えるため自然と子供を相手にしているような感覚になる。この世界では皆高校一年生ということになっているけど実際はどうなんだろうか。おそらく同じ年齢ということはないと思う。直感だけど。でも年齢なんてどうでもいいや。こうして同じ時間と空間を共有できるのが心地いい。
暗い道を皆で歩く。ただそれだけで気持ちが熱を帯びる。ふと空を見上げると雲はかかっているものの切れ目から星が見えた。あの星はなんていう名前なんだろうと思っていたら秋雨さんがぽつりと話し出した。
「私ね、星を見るのが好きなの。特に好きなのはおとめ座のスピカ。今の時期は見れないけどね。あなたも星が好きなの?」
「うん、綺麗だなって思う。明るいし。何か元気がもらえるかも。」
「あの光はね。ここまで届くのに何年もかかっているの。だから今見えているのは過去の状態。星を見ると昔のことを思い出すのよ。」
秋雨さんは星を見ながらしみじみとつぶやいた。彼女は星を見て元気になったり、綺麗だなと思って鑑賞するわけでもなく、過去を振り返っているようだった。過去か。まだ思い出せない。私は一体どんな人生を歩んできたんだろう。星がそれを教えてくれればいいのに。
しんみりしちゃったな。過去がわからないなら、今を大事にしよう。いい未来を創っていけばいいんだ。
「あの。敬語をやめて皆のこと下の名前で呼んでもいいですか? 私、もっと仲良くなりたいんです!」
思い切って言った。私に振り返るべき過去はない。後ろを見る必要はないんだ。私の提案に最初に反応したのは薔薇園さんだった。
「私はいいと思うわよ。わざわざ敬語を使う必要もないでしょうし。それに私、堅苦しいのは苦手なのよ。」
「いいじゃんか。私も賛成だ。仲がいいにこしたことはない。」
「私もいいけど。・・・下の名前で呼ぶことで本当に仲良くなるの?」
「なると思うのー! みるくもおっけーなの。」
「やったー! ありがとう。ふう、思い切って言ってみて良かったー。」
皆同意してくれてうれしい。私が感動していたら紫音がやれやれといった感じで言った。
「おおげさね。あなたは。」
「紫音が堅苦しいの苦手って意外だった。」
「あらあら御冗談がお上手ね、アイリスさん。」
「からかわないでよー。」
ふふふ、あはは。笑顔が自然と出る。それぞれ思うことや抱えているものがあることに違いはない。けどそういうのもひっくるめた上で今の時間がある。
それからも話をしながら帰った。意外だったのは紫音がよくしゃべるということだった。勝手に人と話すのがあんまり好きじゃないのかと思っていた。それに下駄箱であいさつしたとき反応が芳しくなかったし。ただ単に気を許していない相手にはガードが固いタイプなのかな。・・・ということは少なくとも好意は持ってくれているということだよね。やった。
四人と別れてから家に着くとお父さんはまだ帰ってきていなかった。珍しいな。あ、そっか。今日会社に行ってるんだった。夜ごはんどうしようかな。簡単な料理なら私にもできるかもしれない。
そう思ったのが間違いだった。調子に乗ってしまった。出来上がったのは焼き焦げた玉子焼きに煮込みすぎた味噌汁。水が少なくかぴかぴの白ご飯。しかも炊きすぎて量が多すぎる。失敗した。これくらいならすぐできると思ったのに。
がちゃ。お父さんが帰ってきた。するとすぐに焦げた臭いを嗅ぎつけて「大丈夫か!」と心配して駆け寄ってきてくれた。台所は色んな調理器具でちらかっている。どれを使えばいいのか迷ったのだ。それに皿には半分以上焦げた玉子焼き。それらを見てお父さんはすぐに状況を察したようだ。
私は申し訳なくてごめんなさいと涙声で謝った。その様子にお父さんは驚き、すぐに励ましてくれた。迷惑はかけたくなかったのに。喜ばせたかったのに。そう思うとどんどん涙が溢れてくる。涙が止まるまでお父さんは背中をさすってくれた。
結局お父さんはその出来の悪い食べ物を文句も言わず食べてくれた。おそらく気を使ってくれたんだろう。自分が作り直したり、出前をとれば私の心やプライドを傷つけかねないと。その優しさが逆に苦しかった。私に気なんて使わなくていいのに。
「アイリスが頑張ってくれたのは伝わるし素直にうれしかった。だからそんなに落ち込まないでくれ。」
「・・・うん。」
それからお父さんが玉子焼きの作り方を教えてくれ一緒に作った。一人だと全然ダメだったのに今度は綺麗にできた。誰かが助けてくれることはこんなに幸せなことなんだな。
それから肉の野菜炒めも作り食べた。本当にいい味がした。
そんなとき胸のネックレスがかたかたと震えだした。
メイド・イン・マジック~最強の魔法少女の私、力を籠めすぎたら勢い余って地球壊しちゃいました~ @meimaji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。メイド・イン・マジック~最強の魔法少女の私、力を籠めすぎたら勢い余って地球壊しちゃいました~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます