第9話 ドッジボール
次の日の朝。カーテンの隙間から日差しが入ってこない。曇っていそうだな。起き上がりカーテンを開けると案の定曇り空だった。日差しを浴びた方が気持ちいいんだけどな。まあいいや。曇ってても眩しく感じるから目が疲れてるのかもな。洗顔した後目薬をさしておこう。
いつものようにおはようとお父さんに挨拶する。するとお父さんはスーツに着替えていた。
「今日どこかに行くの?」
「ああ。今日は会社に用事があってな。」
「そっか。」
お父さん会社員なのか。いつも家で仕事してるのはやっぱり私を気遣ってのことなんだろうな。本当にお世話になりっぱなしだ。私が実は勇者で記憶が曖昧になっているなんてことを知ったらどう思うんだろう。お父さんにも自分にも二人の思い出があるはずなのに。今の世界の記憶も前の世界の記憶もはっきりはしないからな。知っているのは私が剛腕の魔法少女だったことと今は女子高校生ということだけだ。
私は食事を終え自室で着替えている。姿見の前で自分の姿を見ていると不思議な気分になった。これが私なんだもんね。前の世界とは姿が違うけど、これがこの世界では正しい姿だ。あの四人は前の姿のままなのかな。もっとあの四人のことを知りたい。そして自分のことも。
よしっ。制服のリボンをキュッと締めて気合を入れる。鏡に向かって行ってきますと小さく言うと、いつも通りに学校へ向かった。
学校へ行く途中野良猫を見かけた。一瞬あの猫かと思ったけど、普通の猫だった。近づいても逃げない。それどころか悠然とあくびをしている。私は猫のそばまで行きにゃーと話しかけてみる。すると猫はじっとこちらを見てからどこかへ去ってしまった。ありゃ。嫌われちゃったのかな。撫でたかったのに。
あのしゃべる猫が脳裏をよぎる。あの猫は触りたくないんだよなー。猫じゃなくて別の生き物に感じるし。猫を触るのはあきらめて登校を再開した。
学校に着くと下駄箱で薔薇園さんを見かけたので声をかける。
「薔薇園さん、おはよう。」
「おはようございます。」
あえてフランクに言ってみたんだけど失敗だったかな。薔薇園さんは真顔だ。昨日の件で少しは仲良くなれたと思ったんだけれど。まあちょっとずつ距離を縮めたらいっか。
私は1-1の教室に入った。ちなみに秋雨さんが1-2。夢見さんが1-3。薔薇園さんが1-4。火暗さんが1-5だ。全部で7クラスある。
四時間目体育の時間。お昼ご飯前だから正直きつい。なんでこんな時間にやるんだろう。お腹が空いて力が出ないよー。
今日やるのはクラス対抗ドッジボール。私のクラスは体育が1-3と合同なので夢見さんと一緒だ。準備体操を行った後いよいよ勝負だ。
夢見さん大丈夫かな。あんまりこういうの得意そうには見えないからな。それに何だかボールを当てるのが憚られる。でも私がボールを持っている以上誰かには当てないと。よし、適当に投げてみるか。えいっ。ボールを投げるとびゅおんという風を切る音とともに相手のクラスメイトの体を掠めた。
あれ。私そんな力入れた覚えないんだけど。相手のクラスどころか私のクラスメイトも引いた目で見ている。視線が少し痛い。今度は加減を間違えないようにしないと。外野の人が遠くへ行ってしまったボールをとって戻ってきた。そしてこちらにボールをパスする。もちろん私にはボールは回ってこなかった。
そこから段々と人は減っていって、相手は残り三人。こちらは残り五人になった。以外だったのは夢見さんがまだ残っていることだ。皆がわざと当てるのを避けているのか・・・いやなんかボールの方が夢見さんを避けてる感じがする。そんな訳ないんだけど。でもそういう風に感じる。相手チームにボールが渡りこちらに投げてくる。するとボールが当たる寸前で軌道が右にずれ避けたはずのクラスメイトに当たってしまった。うん、やっぱりおかしいな。夢見さん何かやってるなー。そう、彼女も勇者だ。変身しなくても力が使えてもおかしくない。おそらくボールに手を加え軌道を変えている。それも自然にみせるために無理な軌道の変更はしていない。これは手ごわいぞ。
そしてついに夢見さんと私の一騎打ちになった。今ボールを手にしているのは私だ。どういう理屈で軌道を変えているのか知らないが、ここまできたら小さな軌道変更でも目立ちすぎる。ならドっ直球で勝負するしかない。ここは人を傷つけない程度に全力で投げよう。私はわざと大きく振りかぶり夢見さんのど真ん中にボールを投げ込んだ。
すると夢見さんに当たる寸前でボールは見えない壁にぶつかったように回転を減衰しその場に落ちた。その不思議な光景に皆ぽかんとしている。そしたら夢見さんはわざとらしく
「あー、当たっちゃたのー。」
と言って地面にお尻をついた。かくして私のとどめの一撃で勝負はついた。しばらく何とも言えない空気は流れていたが勝ちは勝ちだ。うれしい。
体を動かしてすっきりした。いつもよりお腹も空いているからごはんもおいしい。ただ食べ終わったら急に眠くなってきた。後の休み時間は仮眠しよう。うん、この眠っている時間は幸せだ。色んなことから解放される気がする。
キーンコーンカーンコーン。チャイムで目を覚まし午後の授業を受けた。結局眠気は残ったままだったのに英語の授業だったから余計に眠かった。 I have a pen とかいつ使うんだろう。リンゴに刺したら面白そう。
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