第8話 お願い部
気が付くと朝になっていた。ものすごくお腹が空いていて、お腹に口がついているみたいに大きくお腹から息を吸う。ふう。なんだかすごくいい夢を見た気がする。・・・。いやあれは夢だけど夢じゃないんだよね。
私は起き上がりカーテンを開けると全身で日光を浴びる。ああ気持ちがいい。理屈とかはわかんないけど、私は前の世界の私の願いを叶えるために戦おう。きっと彼女の願いは敵を倒すことだから。
「おはよう!」
「おう、おはよう。今日は元気いいな。ご飯食べてなかったけど大丈夫か?」
「うん、お腹すごく空いてる!」
「昨日の分一応冷蔵庫に残してあるからな。」
「ありがとう。」
洗面所で顔を洗うといつもよりしゃきっとする。ぼやけていた視界が一気に晴れたような感覚だ。鏡をみるとぴょこんとアホ毛が立っている。あれ、これ手で押さえても直らない。水を使ってもドライヤーを使ってもだめだ。そういえば夢の中で変身した私にも同じようなアホ毛があったような。これは前の世界の私とのつながりなのかな。まあ直んないならそのままにしておくか。
冷蔵庫を開けるとかつ丼が入っていた。朝からこれを食べるのは普段ならきついけど今日はいける。それにいつもより早く起きているからまだ朝ごはんは用意されていない。
かつ丼を電子レンジで温めている間にあることを思いついた。
私はかつ丼をかきこみいつもより早く家を出た。そんな私の様子をお父さんは不思議そうに見ながらも笑顔で見守ってくれた。
空は今日も澄み渡っている。冷たい風が心地いい。紅葉し始めた木々たちが秋の息吹を感じさせる。
るんるんで学校に着くとすぐさま職員室に向かった。
「田中先生はいますかー。」
職員室の中には先生たちはまばらにしかいなかったが、私の声に田中先生が反応しこちらを見る。よしっ、いた。
私は田中先生のもとへ行くと、ある相談をもちかける。
「田中先生、あの。ごにょごにょ。」
「そうですか。わかりました。そちらの件は私の方でなんとかしておきます。」
「ありがとうございます!」
田中先生に勢いよく一礼し職員室を後にした。扉を閉める瞬間田中先生が一瞬微笑んだ気がした。
その後はずっとそわそわしていた。早く放課後にならないかな。周りから見ると私の様子は挙動不審に映っただろう。けどそんなことどうでもいい。中々針の進まない時計に少しだけいらいらしながら時間が経つのを待った。
そして放課後。私は空き部屋になっている特別教室へと向かった。この教室は道徳のビデオを見る際などに使っていたらしいが、今はそれぞれの教室にテレビがあるので使われていないらしい。
その扉を開けると例の四人と田中先生が中にいた。先生に頼んで四人を集めてもらったのだ。私が教室に入ってくると皆怪訝そうな目で見てくる。私は息を吸い込み大きく吐いてから話し始める。
「あの! 私たちで新しい部活を作りませんか?」
その言葉に皆余計に怪訝さが増した。何を言っているんだって思われてるんだろうな。でも負けじと話を続ける。
「私たちはもっと絆を深めた方がいいと思うんです。協力しないと魔神は倒せない。そのことは昨日、よーくわかったと思います。それに折角高校生になったんだから学校生活も存分に楽しみましょうよ。皆にはそれぞれ願いがあって抱えているものもあると思う。でもだからこそこの状況を楽しんで一緒に願いを叶えましょう!」
私が言い終わると薔薇園さんが口を開いた。
「それが、あなたの願いってことかしら?」
「これも私の願いです。前の世界の私自身の願いは自然と叶えられるから、皆の願いを叶える手伝いをする。そして一緒に楽しむ。わがままだけどこれが今の私の願いです。」
「そう。」
薔薇園さんは短く返事をするとふっと小さく息を吐く。その吐息には嫌な感じはしなかった。
今度は秋雨さんが手を挙げる。
「それで、どんな部活にするの?」
「それは、ずばりお願い部です!」
「は?」
「学校の人たちのお願いを私たちが叶えるんです。私たちには前の世界での経験がある。それにそうすることで色んな情報が集まってきて、魔神に関する情報ももしかしたら手に入るかもしれない。いい提案だと思いませんか?」
「・・・そうね。そうかもね。」
秋雨さんはそう返事をし一応飲み込んでくれた。後の二人はどうだろうか。
「他の方はどう思いますか?」
私が少しだけ自信なさげに訊くと、夢見さんは「いいと思うの!」と笑顔で答え、火暗さんは「面白そうじゃん。」とニカッと笑顔で答えてくれた。薔薇園さんは「私も同意しますわ」と言い、秋雨さんはゆっくり頷いた。
「じゃあ決まりですね。顧問の先生は田中先生ということでお願いします。それで学校の人の願いを集める方法なんですけど・・・・・・。」
私は一つ一つ説明していった。皆全てを飲み込めたわけではなさそうだが、ちゃんと話を聴いてくれた。
今日はまず新しいこのお願い部の張り紙を作り掲示板に張った。その頃にはもう日が暮れていたため、家に帰ることになった。そこで私はまた攻めることにした。
「折角なので五人一緒に帰りませんか?」
「おう、いいぜ。」
「いいですわよ。」
「うん、一緒に帰るの!」
「わかったわ。」
皆それぞれ同意してくれた。よしっ。一緒に帰れる。それだけで嬉しいしそれに訊いてみたいこともたくさんある。特に前の世界のことは気になる。でもあんまりそういう話はしない方がいいのかな。
帰り道。私が話し出すタイミングをうかがっていると、夢見さんがふらふらと匂いにつられどこかへ行ってしまった。
どこに行ったのかと思ってついて行くとそこは老舗のたい焼き店だった。夢見さんはすんすんと匂いを嗅いでいる。
「すごくいい匂いなのー。」
「夢見さんはたい焼き好きなの?」
「これたい焼きって言うの? すごくいい匂いがするから食べてみたいなの。」
「そっか。じゃあここは私が皆の分買ってあげるね。」
「わーいなのー!」
私は一応振り返って他の三人の様子を見ると皆たい焼き店の方を見て、匂いを楽しんでいるようだ。これなら皆食べてくれるよね。味はどうしようかな。定番はあんこだけど他にも味があるし、一応訊いておくか。
私は手首を曲げてこいこいと手招きする。
結果、私と薔薇園さんはつぶあん。秋雨さんと火暗さんはこしあん。夢見さんはカスタードになった。
私が皆の分をおごろうとしたのだが、夢見さん以外は後でお金を返してくれた。彼女たちは生活を政府特殊機関の魔笛に支援してもらっているらしい。まあそうだよね。私には家族がいるけど、他の四人にはいないもんな。
あつあつのたい焼きを近くの公園でほうばると、すごくほかほかでおいしかった。私にはおそらくこういう経験がない。お昼ご飯も一人で食べてるし友達いなかったんだろうな。
うん、すごくあったかい。長椅子に座っているから皆の体温が伝わってくる。
すると誰からともなく雑談が始まった。話し出したのは秋雨さん。
「私、こういう経験なかったの。前は戦いばかりだったから。ただ敵を斬るだけ。だからありがとうね。」
か、かわいい! ありがとうねってぽしょりと言う姿がいじらしい。
「私もなかったぞ。というか皆ないんじゃないのか?」
火暗さんの言葉に皆頷く。ということは皆も戦いばかりだったんだな。そこでも世界を救う使命を負っていたんだろうか。
いい雰囲気だしここは思い切って訊いてみようかな。
「あ。あの。皆さんは前の世界ではどんな感じだったんですか?」
なんと沈黙が流れてしまった。しまった。私がいい雰囲気を断ち切ってしまった。あああ、と私が頭を抱えていると、秋雨さんが答えてくれた。
「そもそも私には前の世界っていう感覚はあんまりないのよね。そっちの方が本来いた世界だから。元いた世界が古い世界というより、こっちの世界が新しいという感じ・・・かな。」
「みるくもそんな感じなのー。まだこの世界になじみがないなの。」
「私もそんな感じだぞ。気が付いたらこっちにいたからな。」
「そうですわね。」
「そうなんだ・・・。」
やっぱり私が例外なんだな。多分イメージとしては他の四人はそのままこちらの世界に飛んできた。それで私は元々この世界に存在していて私の中に剛腕の魔法少女が転生してきた?みたいなことだと思う。不思議だけど。それに段々と私たちの意識は交じり始めてる気もする。
もうだいぶ日が傾いてきた。あたりも暗くなってきたから、もうそろそろ帰らないとお父さんに心配をかけてしまう。
たい焼きを食べ終えると皆立ち上がって一緒に帰った。その間は他愛もない話をした。この世界についてどう思ってるのかとか、明日からの部活動どうしようかとか。
あたりは暗いけど月は明るくて。私は涼しい風の中にも熱を感じた。
皆とアパートで別れてから少し歩き家の前まで着いた。ただドアの鍵を開けるだけなのに、いつもと違う特別な感じがした。
「ただいまー。」
「おかえり。何かいいことでもあったのか?」
「・・・うん!」
話したくてしょうがなかった。もちろん話せないこともあるけど、今日あった出来事を話したい。私は急いで部屋着に着替えると食卓に着き、お父さんに話した。それをうんうんと丁寧に聴いてくれる。話し相手がいるってやっぱりいいな。
それからは気が高ぶって眠れなかったから夜更かしをしてから寝床に着いた。明日からがすごく楽しみだ。どんなことしようかな、話そうかな。わくわくしてどくどくした鼓動を感じながら眠りについた。
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