第7話 童話の魔法少女

家の玄関に入ったらお父さんがいつものように挨拶してくれた。ただ今日はいらっとしてしまい、無視してしまった。お父さんは私に何かあったのだろうと察してくれ放っておいてくれた。

自分の部屋に入ると少し安心した。でも今日聞いた話は受け止めきれない。私は普通の女子高校生だったはずだ。なのに別の世界から転生してきて勇者として世界を救わないといけない。それは命をかけるということだ。何でそこまでしないといけないんだ。勝手に役目を押し付けられてしまった。この役割は本当は別の人のものだったんじゃないだろうか。

ただ普通に生きていくのだってしんどくて、普通ってものすごく幸せなことなのに。勇者が格好いいのは空想の世界だけなんだよ。現実の勇者、英雄なんて凄絶な最期を迎えていることも少なくない。

私はそんな英雄やおとぎ話の主人公ではないんだ。確かに変身という超常的なこともした。実際に敵と戦った。だけど・・・。私はいつものように起きて、お父さんとご飯を食べてぐっすり眠れればそれでいい。

他の四人はどう思っているんだろう。道半ばでたおれた。彼女たちは何かを成そうとして一度死に、この世界にやってきた。私もその一人なのだろう。だけどやっぱりそんな記憶はないんだ。私の中にある違和感。もう一人いるような感覚。これがそうなのだろうか。

今日はもう眠ってしまおうかな。疲れたし、あんまり食べれる気分でもないし。こういうときは寝るのが一番いい。


夢の中にピエロがいる。路上でバランスボールに乗りながら人の目玉でジャグリングしている。それを私は楽しそうに見ている。時々お手玉されている目玉と目が合う。すごく不気味なのに目が離せない。

ピエロがバランスボールから降りると場面が変わって、私は家の中にいる。そして玄関のドアを必死に閉めようとしている。何かが迫ってくる。急いで閉めないと。でもなぜか上手くドアが閉じない。隙間ができてしまう。そこに何かが手を突っ込んでくる。まずい、襲われる。

バタンと何とかドアを閉めることができた。ふう、助かった。・・・・・・。

「やあ。」

後ろに誰かいる。怖い。気持ち悪い。悲鳴もあげられない。

「君、いい反応するね。」

は?なんだよ。どっか行ってよ。

「じゃあ特別に夢の世界に招待してあげようかな。」

夢の世界・・・。何を言ってるんだろう。そっかこれは夢なのか。じゃあ何も恐れる必要はない。こんなやつ消し飛ばしてやる。・・・・・・。全然消えない。場面も切り替わらない。なんで。

「そりゃそうだよ。僕は君の所有物じゃないんだから。さあ夢の世界へ、ドリームイン!」


ここはどこだ。周りになにもない広い土地。建物がないおかげで空が良く見える。あの雲は綿菓子みたい。空に見惚れていると、ドンッと空気が震え始めた。なにこれ。ブルブルブル。振動は収まらない。すると遠くで空中から卵が出てきて地面に落ちた。振動で卵が揺れぴしっと割れ目が入る。そして中から巨大な怪物が現れた。

高さは10m以上はある顔や腕がいくつもある巨人。こわい。あんなのに襲われたら絶対に死ぬ。怪物の絶叫に足がすくみ震えて地面に崩れ落ちる。

すると後ろから声がして近づいてくる。

、あるところに一人の魔法少女がいました。その名前は童話の魔法少女。今から私が世界を助けてあげるわ。」

私の横まで来た少女は笑顔で微笑みかけてくれる。小学三年生くらいの見た目に赤いランドセルを背負っているおかっぱ頭の少女。こんなところにいたらあなたも危ないよ。

「大丈夫。任せなさいって。童話魔法第一章ファーストオリジン魑魅魍魎オーがクライシス。」

彼女がそう唱えると高さ5mはある巨大な鬼たちが召喚された。彼らは巨人に向かっていく。どしどしと重い足音で怪物同士がぶつかり合う。

「あなたはこの状況をどう思う。怖いって思うでしょ。」

「うん。」

「私もね怖いんだよ。あんなのを相手にしないといけない。本当にやってられないわよ。・・・もう何十年戦ってきたか。本当に長い。だから次はあなたに託すわね。」

「え・・・それはどういうこと?」

「あなたが次の魔法少女。剛腕の魔法少女よ。」

な・・・。私が次の魔法少女。これは夢なんだよね。でも剛腕の魔法少女って先生にもそう言われた。もしかしてこの魔法少女が私の中にいるもう一人の私?

「さあ手を取って。あなたは最強なんだから。」

童話の魔法少女が手を差し出してくれる。その手をとって私は立ち上がった。そして「コメット・チェンジ。」と声高に叫ぶ。全身が白い光に包まれる。そうかこれが前の世界の私、剛腕の魔法少女なんだ。その実感に体が全身の細胞が震えざわめき立つ。どんな敵でも一撃で一掃できそうだ。気持ちがいい。心が細胞が踊りだしてきた。

「行ってきなさい。」

「はい、行ってきます!」

童話の魔法少女が笑顔で送り出してくれる。さあ私の出番だ。

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