『ライトノベル』

コーク

曲がり角にて

「いって来まーす!」


 心地の良い風が頬をなで、桜の花が美しく咲き誇り、鳥の囀りが聞こえてくるような、青空の広がる晴天の春の日。

 僕は、そんな、元気一杯の挨拶と共に、玄関から外へと踏み出した。


 そう、今日は、この僕の晴々しい青春の1ページ目である、新しく入った高校の入学式だ。

 中学校にいたときの僕は、運動部に所属し、勉強もそこそこできたのになぜかモテることができないという、不可思議な現象の可哀想な被害者であった。


 しかし僕は、高校に入ってもそのような被害を被ろう、などと思うような愚か者ではないのである。春休みには『ライトノベル』と呼ばれている、今では僕の人生の立派なバイブルである恋愛の指南書を熟読し、それを実行に移すための努力もした。

 元々は短かった髪の毛も最大限まで伸ばし、目はいい方にも関わらずにメガネをかけ、女の子を守るためにと思い、柔道をも極めてきた。

 もはや今の俺は、『ライトノベルの主人公』と言われても遜色ないほどの逸材だろう。

 しかも俺には、目に入れても痛くないほどに可愛い妹もいる…。


 これはもう、負ける方が難しいというもの!!


 そんな自信とともに、俺は通学路を歩いていく。


 もちろん、猫背で自信なさげなのも忘れずに。


 そんな調子で歩いて来た俺は、赤信号となった横断歩道に前で立ち止まる。


 すると、向かいの道から、おにぎりを片手に、「遅刻遅刻ー!」と焦った様子の男子学生が歩いてきた。

 ふと右を見てみると、これまた、食パンを口にくわえた、とんでもないほどの美少女が走ってきた。


 お、おい……これは……まさか……!


 起こるというのかッッ!あの、現実では起こるわけが無いと、俺が信じたイベントがッ!


 ドキドキと高鳴る鼓動と共に、目の前の曲がり角を見ていると…その男女がぶつかった。


「「イタタタ…どこ見て歩いてるんですか!!」」


「「……あぁ!?」」


 そこからは、男女の口論が始まる。しばらくすると、互いに睨み合い、「「フンッ!」」と顔をすむけ、歩いていった。


 も、もしやこの交差点は…あの、全男子の夢、『入学式の日の朝にごっつんこ』が、実現できる場所だというのか!


 目の前で起こった出来事につい感動してしまった僕は、自分のほっぺたをつねり、夢でないことを確認しながら、咽び泣いた。


 周りの人たちがこちらを見ているような気もするが、関係ない!俺も乗らなくては、この、ビックウェーブに!!


 そうと決まった僕は、近くにあったコンビニに全力で走り、適当なおにぎりを買い、それを片手に持ちながら件の交差点へと走った。


 そのままの速度で交差点に飛び出し、僕は衝撃に備えて目を瞑った。















 次の瞬間、目を開けた僕の視界に飛び込んできたのは、真下で倒れる僕と、止まっている大型トラックと、悲鳴をあげている大衆の姿だった。





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