最終話 百合の間に、挟まりたくなんて無かったのに


 城門を抜けた二人が対峙した時、サリアがふと、動きを止めた。


「ん? どうした?」


「私、いいこと思いつきましたわ」


「何だ?」


 不思議そうにマヨイがそう聞き返す。


「三人ずっと一緒にいればいいのではなくて?」


 まるで初めて思いついた最高のアイデアを、自分の中で咀嚼するように、サリアは言った。


「む? どういうことだ?」


「だって、私はユキとも、マヨイとも一緒にいたいもの。どうしてどちらかを選ばなくてはいけないのかしら」


 それは、王族ならではの、二つのもので迷ったら、どっちも買ってしまえという、無茶苦茶な理論だった。ユキは思わず吹き出した。そんなことを言い出したら何だってありになる。マヨイも認めるはずがない。


「確かに、それもそうか?」


 しかし、よくよく考えれば、マヨイもまさに王女なのだった。世間一般の考え方が通じないことを、ユキは思い出した。


「マヨイとも、接吻をしたことですしね」


「あっ……」


 サリアの衝撃的な一言に、マヨイは似つかわしくない小さな悲鳴を上げた。そして目をそらして顔を真っ赤にしている。そんな光景を見て、ユキは心臓を射抜かれていた。


(キスを……した? 二人が? あんなに仲悪そうにしているくせに、やっぱり親密にしていた⁉)


 それはまさに、ユキが望み続けていたことだった。ユキが邪魔者になっても、二人はちゃんと前に進んでいた。


「やった……やったわ……ふふふ……」


 ユキが虚ろな目をしてそう言い始めたのを見て、心配そうに二人は駆け寄る。


「お、おい、ユキが壊れたぞ」


「まぁ! やっぱり私とマヨイが接吻するのは、嫌だったんですわね!」


「何度もせ、接吻とか繰り返すな!」


「何がいけないんですの⁉ 接吻! 接吻接吻接吻!」


「やめろ!」


「あぁ……涙が出そう……」


 ユキの流す涙は感動の涙だった。


 紆余曲折あったが、サリアとマヨイ、その二人の王女は、こうしてついに、いつでも一緒の場所でいられることになり、禁断の恋は許された。


 仲睦まじくキスした様子を語り合っているのを見て、ユキは物語の結末を見ているようで、拍手を送りたい心地がしていた。


 しかし、ユキのそんな特殊に入り混じった脳内の考えなど知る由もなく、サリアとマヨイは心配そうにユキの顔を覗き込んだ。


「あぁユキ、ごめんなさい。のけ者にする気なんてありませんわ。これからずっと、三人で一緒にいましょうね」


 サリアはそう言って、いたって真剣に無茶な提案をした。


「そうだぞ、ユキ。私にとって一番大事なのは、ユキなんだからな。泣くんじゃない」


「は、はぁ⁉ 三人で一緒にいようと思っていたのに、序列をつけるんですの? だったらもう絶交ですわ! ユキは私のものです!」


 サリアはマヨイに怒って、ユキの片腕に抱き着いた。するとマヨイも、ユキのもう一方の腕に抱き着いて、自分の方へと引き寄せた。


「私のだ! 私の方がずっと長くいたんだぞ」


「私のものです! 私が最初にユキと接吻したんですから!」


 サリアはそう言って、ユキの腕を自分の方へと引っ張り戻す。


 それから二人は言い合いを続けながら、両側からユキを引っ張り合った。ユキは二人の王女に取り合われながら、脳を揺らされて気持ち悪くなり始めた。


 そして心の底から、こう思っていた。


 どうしてこうなるんだろう?


 百合の間に、挟まりたくなんて無かったのに!

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百合の間に挟まりたくなんてなかったのに ~王女と王女と奴隷の少女~ 八塚みりん @rinmi-yatsuka

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