第2話 天使と悪魔と中立の俺

 俺の目の前で顔を赤く染める成川香澄。


 これが嘘なのか本当なのか、悩んでいた。


「どうした? アマモト。カスミさんが待ってんだ、早くなんとか言えよ」


「そうだ、そうだ」


 くそっー、外野が煩い。


 それに俺の脳内にも悪魔と天使が現れて、葛藤中だ。


『おい、何を悩む必要があるんだ。お前だって、あの大きな胸が気になってたんだろう。あいつと付き合や、好き放題できるんだぜ。そんなの考えるまでもないだろう』


『ええー、そんなのダメだよ。恋愛ってそんなもんじゃないんだよ。別に僕は彼女が好きなわけじゃないんだから、正直に白状して謝れば、許して貰えるはずだよ』


『ああーーっ!! 何言ってんだ。そんなわけあるか。今までの暴言聞いただろうが。本音をバラシしゃ、復讐されるくらいなもんだろうが!!』


『ううん、そんなことない。彼女は本気で僕に惚れていたんだ。断られたら素直に諦めてくれるはずだよ』


 言い争う悪魔と天使がうるさい。


 まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかった。


 俺はただ、平和な日常を取り戻したかっただけなのに……ほんと、どうしたらいいんだ。


 そう悩む俺の脳内に、今度は中立の俺が現れた。


『だったら、キミが彼女を好きになればいい』


『何言ってんだ、おまえ』


『そうだよ。彼女は僕を虐めていたんだよ。そんなことできるはずがないよ』


 俺もそう思うが、中立の俺は違うらしい。


『そうかもしれないが、キミたちの目的は達成されると思わないかね』


『どういうことだ?』


『わかるように説明して』


 うん、俺もききたい。


『なら言うが、悪魔のキミは、あの大きな胸目当てで付き合えばいいという。そして、天使のキミは、好きじゃないからダメだという。なら、付き合いながら好きになればいい。そもそも告白とはそういうものじゃないのかね。最初から両想いなんて、そうそうあるもんじゃないだろう。お試し期間ってのがあるのも、恋愛だと思うんだが、どうだね?』


 なんか、中立の俺が良いこと言ったぽい。

 お試し期間なら、あとから断ればいいんだし。


『ま、いいんじゃないか』


『そうだね、それもありかも』


『ふふふ、なら決まりだな。ということだ、キミ』


 何がだよ!!


 やべぇ、脳内の俺に突っ込んじまった。


 でも、中立の言い分もわかる。

 何より、このいじめが無くなるなら、喜ぶべきなんじゃないか。

 それに、俺から言い出したことなんだから、責任は取るべきだろう。

 このままじゃ、俺もあいつらと一緒だ。

 そんなふうになりたくねえ。


 そう決断し、思い切って彼女の両手を握ろうとした、そのタイミングで……、再び悪魔と天使、中立の俺が登場。


『ところでよ、あの女、俺のどこに惚れてんだ?』


『あ…………。そう言えば、そうかも……。』


『おい、キミ。心当たりはあるのかね』


 ないです……。


 そもそもギャルの彼女が俺に惚れるなんて、あるわけないだろう。 

 彼女が俺と同じオタクってなら話は別だが、そんな素振りは無かったはずだ。


 俺が悩んでいると、更に悪魔と天使、中立の俺に責められる。


『おい、俺。なんか思い出せよ。一つくらいあるだろう。例えば、捨て猫に餌をやったとか』


 無いね……。


『なら、痴漢に遭っている彼女を、僕が助けたとかは?』


 それも無い。っていうか、そんな度胸、俺にあるわけねえ。


『そうか……。なら、キミに惚れられる要素なんて、全くないってことで合ってるな』


 はい、その通りです……。


 嘘だろう。これじゃあ、振り出しじゃないか。

 と、思っていたら……。


『なら、直接聞けばいいじゃんか』


『そうだね。成川さん、どうしてOKしてくれたんですか? ってね』


『うむ、それで行こう。キミの奮闘ぶりを期待しているよ』


 って、おいっ、結局投げやりじゃないか!


 クソッ、アイツら俺の頭を引っ搔き回しやがって……って、それも全部俺か。


 もういい。最初から覚悟は決まっていたんだ。

 俺には、こうすることしかできない。


「ありがとう。でも、どうしてOKしてくれたの?」


 思い切ってそう尋ねてみると、成川さんからは思いがけない言葉が返ってきた。


「えっ、そんなの、天本君が小さくて可愛いからだよ。母性本能がくすぐられるっていうか……」


 はぁ? 彼女、母性本能がくすぐられる相手に、あんなこと言ってたの?


 マジか……、そんなのわかるわけねえ。


 ただ、わかることは、どう考えても黒岩沙月が悪い。

 純粋な彼女に、何言ったらあんなことになるんだ。


 俺が黒岩さんに視線を向けると、ヤツはスススと視線を逸らした。


 どうやら自覚があるっぽい。


 となれば、追及すべきだよね。


「ねえ、黒岩さん。どういう事かな?」


「い、いや、あの~そのう~。昔から好きな子はイジメたくなるっていう、アレを……」


「ふ~ん、そうなんだ。でもね、知ってる? あれって、大概は相手に嫌われるからね」


「うっ……」


 もうすっかり彼女たちの本性を知ってしまった俺が、強気に黒岩さんを責めていると、成川さんが不安になったらしい。


「もしかして、アマモト君、イヤだった?」


「うん、とても」


「ごめんなさい。でも、だったらどうして、私のことを……」


 そう言って下を向く彼女がまた、カワイイ。


 もしかして俺、もう彼女を好きになっていないか?


 たぶん、というか、きっとそうだ。


 なら、迷うことなんてない。

 嘘で塗り固められたことでも、あとで真実にすればいい。


「だって、こんなに可愛い成川さんが、どうしてあんなことをするのか不思議に思って」


 だから、そう言ってみた。


「ほんと、ごめんなさい。あとで咲月はシメとくから。これからよろしくね、タクミ」


「うん……」


 あれ? なんか思っていたのと違う。

 さっきまでの成川さんはどこ行った。


 でも……。


 なんとなく、上手くやれそうな気がするんだよね。


 はぁ……、単純だな……男って……。


 



 

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毎日のように俺をバカにしてくるギャルへ、仕返しのつもりで嘘コクしたら…… かわなお @naokawa

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