毎日のように俺をバカにしてくるギャルへ、仕返しのつもりで嘘コクしたら……

かわなお

第1話 仕返しのつもりで

 俺、天本あまもと拓海たくみには、会いたくないやつがいる。


 それは、同じクラスのギャル、成川香澄だ。

 見た目は金髪の美少女で、背は俺よりも高い。

 おまけに胸も大きく、苦しいからって胸元のボタンを2つ目まで外しているから、谷間が丸見えだ。

 それでも彼女は気にする素振りもみせず堂々としていて、目のやり場に困るっていうか眼福なんだけど、問題はやたらと俺に絡んでくることだった。


「おい、チビ。無視すんじゃねえよ。こっち向け」


「アハッ、こいつ耳が遠いんすよ。もうお婆ちゃんじゃないんすかね」


「ん、それを言うなら、お爺ちゃん。チビで軟弱そうだから、すぐに骨が折れる」


 相変わらずな言い草だが、俺はグッと堪えて聞き流す。

 すると、今度は暴言だ。


「おいおい、アマモト。無視すんじゃねえよ。おめえとわたしとの仲だろう」


「キャハハ、なに、その仲って。奴隷の間違いなんじゃないっすか」


「ん、アマモト。ジュース買てきて。リンゴのやつ」


 いや、なんでだよ!


 と、こんなことが続く毎日だ。


 クラスでも目立つギャルたちってこともあって、俺に近付くやつなんて誰もいねぇ。

 みな、イジメの対象になることを怖れているんだ。

 もちろん、俺だって自分に関わらないことなら、そうする。


 だから、恨んでなんかいないが……、どうして彼女たちは俺を目の敵にするんだ?

 

 ギャルでリーダーの成川なるかわ香澄かすみと、その取り巻きの黒岩くろいわ沙月さつき香山こうやま奈緒美なおみ


 俺が彼女たちからバカにされるようになった理由が、さっぱりわからない。

 心当たりは全くないし、唐突に始まったんだ。

 

 もともと俺は、目立たない存在だった。


 好きなものはアニメ鑑賞に、漫画やラノベを読むこと。

 生粋のオタクと呼んでくれても差し障りはないが、最近ではアニメの影響から電車にハマりつつ、ミリタリーにも興味がある。


 そんな俺とギャルに、どんな接点があるっていうんだ。


 いじめか?

 やっぱ、いじめなのか?

 

 そりゃあ、確かにキモいオタクかもしれないけど、彼女たちに迷惑はかけていないはずだ。


 なんかムカつくから。


 そうかもしれない。


 でも、だったら目に入れなければいい。

 俺ならそうする。


 むしろ、こっちがムカつく。


 けど、怖い。


 相手はギャルだ。


 言い返したら、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。


 だから俺は、ずっと我慢してきた。


 いつか終わることを期待して……。


 でも……、もう限界だ。


 これ以上は耐えられそうにない。


 どうにかして、この状況から抜け出さなきゃ……。


 ……………………


 ……………………


 ……………………


 ……………………


 ……………………


 悩んだところで、何も解決はしなかった。


 だから、俺は覚悟を決めた。


 仕返ししてやる。


 どんな結果が待っていようとも、絶対に後悔しない。


 明日の朝日が拝めなかったとしても、このまま辛い思いを続けるくらいなら、死んだ方がましだ。


 俺はそう決めて、登校の途中でいつものように絡んでくる彼女たちが来るのを待っていたら、来た。


「おい、アマモト。今日もチビだな」


「キャハハ、昼に牛乳でも大量に飲ませてやりましょうか。少しは伸びるかもしれませんぜ」


「ん、それいい」


 くソッ! 相変わらずひどい暴言だ。

 でも、今日の俺は違うぞ。

 後悔するがいい。


 言うぞ。

 いいか。


 うっ……。


 声がでねえ。


 落ち着け。


 ここが勝負だ。

 

「あ、あの~」


「なんだよ!」


 うん、予想通りの反応だ。


 よし、言うぞ。


 いいか……。


「な、成川香澄さん。ず、ずっと、あなたが好きでした。つ、つ、付き合ってください」


「えっ……」


 はっ、はっ、はっ、驚いただろう。

 ついに、言ってやった。


 そう、これは仕返しだ。

 もちろん本心ではないが、信じ込ませるためにも右手を出して頭を下げる。

 ずっとバカにしてきた相手から好きだと言われたら、どう思う。

 きっと、『何こいつ、気味悪いんだけど』って、なるに違いない。

 最悪、変態だと思われるかもしれないが、それでもいい。

 人間として最低な行為だとも思うが、相手は俺をイジメてくる奴らなんだから、遠慮なんていらない。


 もしかしたら、これで俺に関わってこなくなるかもしれないし……。


 そう期待を込めて待った。


 ……………………


 ……………………


 ……………………


 ……………………


 ……………………


 なのに、なんでだよ!

 どうして、こんなことに……。


「はい……こちらこそ、お願いします……」


 彼女は顔を真っ赤に染めて、俺の手を取った。


「はぁ!?」


「やったっすね、カスミさん」


「ん、作戦成功」


「二人ともありがとう」


 いや、ちょっと待て。

 嘘だろう。


「いや〜、やり過ぎていないかとドキドキしたんすけどね、成功してよかったっす」


「ん、サツキ、天才」


 いやいやいやいや、ちょっと待って。俺を置いてかないでくれ。

 これはまさかの逆ドッキリ?

 俺が本気にしたところで、『バ~カ。そんなわけねえだろうが』のパターン?


 でも、あの態度を見ると……。


 いまだに成川さんは顔を赤く染めて、こっちをチラチラ見ている。

 手に取ったはずの僕の手も指先を絡ませているだけで、彼女の指もシットリしているし……。


 緊張しているのか?


 カワイイ……。


 イヤイヤイヤイヤ、騙されるな。

 彼女たちは俺を散々苦しめてきたんだ。

 

 許せるはずがない。


 土下座したって許してやるつもりはない、けど……。


 なんだろう。


 悪いのは、成川さんをそそのかした、黒岩さんなのか?

 香山さんも似たようなものかもしれないが……っていうか、こいつらバカ?


 まさか、アレで愛情表現のつもりなのか?


 


 勘違いするな。


 あれは演技だ。

 

 騙されるな。




 俺の脳内をグルグルと渦巻く心の声、声、声。



 くっそー仕返しのつもりだったのに……。



 どういうわけか、俺の方が混乱させられていた。

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