おまけ その後の日常?

普通の生活?

 スローリンまで全区間歩き通したのは結局俺だけだった。

 サイヤンとエイラはどちらか片方が俺について歩き、片方は遺跡で休憩という状態。


「流石に三〇長延は長いです。それによく考えたら普段はほとんど歩いていませんでした。移動魔法を使っていましたから」


「ああ、僕もだな。三〇長延どころか一長延でも結構疲れるよな。歩くのって」


「流石にそれは体力なさ過ぎです」


 こんな感じで。

 6回交代してサイヤンと俺で歩いていたところでスローリンの街門が目視出来るようになった。なのでサイヤンがエイラを移動魔法で迎えに行って、全員で街門へ。


 三人ともこの国で有効な身分証が無い。だから街門に入る時に簡単な手続き。書類も言葉も共通語で使用OKだった。だから普通に書類を書いて提出。


 特におとがめなく街へと入ったところでサイヤンが呟くように言う。


「今日は金も時間も無いからここまでにしよう。遺跡へ帰って寝て、登録その他は明日で」


「そうですね」


 そんな感じで遺跡へ移動魔法で戻って夕食を食べて就寝。

 そして翌日、スローリンの街の中へと魔法で移動し役場へ。魔物討伐者登録を無事済ませた。


 使えるお金が無いのでその後は三日間魔物狩り。勿論夜は遺跡へ宿泊。


 結果、これだけの魔物を提出。

  〇 二級魔物一体(ヒュージサンドワーム:一)

    褒賞金 二五〇×一=二五〇ゴレイラ

  〇 三級魔物四体(サンドトロル:三、ロックゴーレム:一)

    褒賞金 五〇×四=二〇〇ゴレイラ

  〇 四級魔物二七体(ゴブリン:一九、コボルト:八)

    褒賞金 五×二七=一三五ゴレイラ

  〇 五級魔物五五体(サンドリザード:三五、ロックスライム:二〇)

    褒賞金 一×五五=五五ゴレイラ


 これだけ稼げたので結果、家を借りたり家財道具を購入したりなんて事は余裕で出来た。


 家は4LDKで倉庫付き。家賃は一ヶ月分で六〇ゴレイラ。つまり四級魔物一二体分相当、余裕で稼げる額。


 食費は自炊なら一日二ゴレイラあれば充分。つまりは楽勝ペースだ。


 ただし借りた家は街の北西側で街壁近く。つまり中心街からは結構離れている。それでも街壁の内側だから問題は無いだろう。俺以外は移動魔法を使えるから距離は関係ないし。


 また家付近の治安はあまり宜しくない雰囲気だったりもする。

 しかしエイラがいるから問題無い。借りて到着した直後から、彼女は敷地内に魔法や魔術を仕掛けている。


 だから心配するべきなのは家の治安ではない。家に侵入しようとした者の身体だ、きっと。


 更にこの家、最低限の家具はあったがそれ以上は無かった。

 具体的に言うとベッド三床、テーブル、椅子四脚、食器等用棚はあった。しかしカーテンや寝具、鍋釜類は一切無い。


 なのでとりあえず寝具三組とカーテンを購入。鍋釜類はエイラが別棟から持ってきた物をそのまま使用。

 あと他に買ったのはこの街にあった服や靴を全員分。


「今思えば別棟から布団やカーテン等も持ってくるべきでした。我ながら不覚です」


 買い物の後、エイラがそんな事を言っていた。しかしだ。


「これだけ武器や食料を持ってくれば十分だろう。武器は高く売れるしさ。全部を売り払うと怪しまれるだろうから、少しずつ売ることになるだろうけれど」


 サイヤンが言う事が正しいと俺は思う。

 それにしても今更ながらに思ってしまう。エイラの魔法収納の容量はどれくらいあるのだろうと。


 俺は遺跡のホールで武器一通りを広げた時の事を思い出す。

 あれにプラスして更に食料だの私物だのを入れている訳だ。何というか、普通に想像できない量な気がする。


 ◇◇◇


 そしてスローリンで暮らして二週間目の夕方。


「明日からしばらくの間、私は魔物討伐を休もうと思います」


 エイラがそう宣言した。サイヤンが頷く。


「まあ確かにやり過ぎた気がするしさ。これからは魔物討伐、お金に困った時にやればいいだろうとは思っていたんだ」


 やり過ぎたというのがどういう意味かは、俺もわかっている。


 エイラは周囲二〇〇〇延以上、俺やサイヤンでも周囲八〇〇延位にいる魔物や人を探知出来る。

 そして俺だけでも二級程度の魔物は討伐可能。サイヤンやエイラの魔法を使用すれば遠隔大量討伐なんてのも不可能では無い。


 ただそんな能力を駆使して倒せば。いくら魔物が多くてもじきに狩り尽くしてしまう訳だ。


 このことは俺達も当然気づいていた。

 だから家を借りた後は、三級以上の強力な魔物を中心として、四級以下は一日あたり五体程度に抑えていたのだ。


 それでも着実にスローリン周辺から魔物は少なくなって……

 役所で褒賞金受け取りなんてやれば、自然誰が多く狩ったかなんてわかる。

 そして俺達は新参者。なので出来れば目立ちたくない。


「ええ。ですので思い切って、生活費は討伐以外で稼げるようにしようと思いまして。

 街を歩いていたらちょうどいい求人がありましたので話を聞きに行ってみました。実技試験の結果、一発で採用が決まりましたので、当分の間はそちらで働こうと思っています」


 エイラが働くのか。どうにもイメージしにくい。それでもきっと事実なのだろう。彼女は冗談はあまり・・・言わないから。


「参考までにどんな仕事なんだ?」


 俺より先にサイヤンが尋ねた。エイラはサイヤンと俺しかわからない程度の微笑を浮かべて答える。


「パン屋さんです。この家で作っているのと同じパンを五種類作ってみせたらその場で採用が決まりました」


 えっ!? パン屋さん……


 確かにエイラのパン製造魔法、最近はかなり進化している。ハードなパンからふかふかの食事パン、更にはしっとり重い系だのまで。


 材料も白い小麦から胚や皮粉混じりの灰色の小麦粉、更にはライ麦粉やきび粉混じりなんてのまでOKだったりする。


 ただエイラのパン、何というか『家庭で焼きました』というふんわりした雰囲気では無い。『製造しました』という雰囲気なのだ。

 全部魔法を使って自動だからというのが大きな理由だろうけれど。多分きっと。


 でも、まあ、それは……


「パン屋には適しているのか。ムラ無く同じものをすぐ作れるという意味で」


 サイヤンも同じ事を考えていたようだ。


「ええ、そこが評価されたようです」


 エイラはサイヤンや俺が考えた事に気づかないのだろうな。なんてことを思う。

 それとも案外気づいていて、その上で言っているのだろうか。その辺はエイラ、表情以上に読みにくい。


「それで参考までに給料はどれくらいだ?」


「朝八時から昼一二時までの四時間で四ゴレイラです」


 安い! 思わずそう思ってしまう。何せゴブリン一体に満たない金額だ。


 でもまあ、普通に生活するならそれ位でも何とかなるのだろう。食費に二ゴレイラで、あとは貯めておけば家賃に近い額になる。


「平和でいいよな、そういう生活も」


「ええ、その通りです」


 確かにその通りだろうと俺は思う。


 ただその後、サイヤンの口がこう動いた事にも俺は気づいていた。


「これが続けばいいけれどな」


 声にこそならなかったけれど、そう確かに。


(FIN)

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閉塞世界の探索者 〜天授と魔法と古代遺跡~ 於田縫紀 @otanuki

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