第22話 機械化は難しい

「そういえば、1000年もこの世界にいるなら現実みたいな発展をしてるかと思うんですけど、そんな感じないですよね。なんでですか?」


 ベルトルーガの屋敷も、申貫の教会も、閉じ込められる前に見たこの施設も整えられてはいるがコンクリートジャングルを思わせる街並みではなかった。立派なビル群を望んでいるわけではないが、どこか旧世代を思わせる雰囲気がある。鉄の車が走るわけでなく、電装網もない。

 初めはそういうゲームだと思っていたので気にしていなかったが、白鋼が世界観をぶち壊してくれた。ああいった機械があればもっと世界の発展は大きく変わっていてもおかしくはないのではないか。


「ポーラちゃんはこの湯沸かし器が何で動いてるかわかる?」

「魔石、っていってましたよね」

「そうそう。魔石は気持ち安定した燃料なんだけど、魔力自体はめちゃくちゃ不安定なんだ」


 そういってミソシラは手の上に火球を発現させる。

 ポーラはできないが、この程度の魔法は基本的に誰でも使うことができる。

 そう誰にでも。


「この湯沸かし器は機械的に魔力を熱に変換する仕組みを持っているけど、魔力を扱える人なら離れた場所からでも壊すことができちゃう。わざわざそんな事をしないだけでそれくらい脆い」


 それでも発展を思えばインフラとして整備できなくはないが、それを邪魔するのが魔物、そして精霊である。魔物は魔力を求めて動き、魔力を糧に力を増す。

 試験的に魔送網を張り巡らせる計画があったのだが、徒労に終わった。空にも地下にも魔物は現れ、最強の防護素材ですら保護の役に立たなかったのだ。量が多ければ多いほど比例するように魔物の発生頻度が増す。それを守る仕組みが構築できなかった。

 金属ゴーレムをその対策に配備した事もあるが、嘲笑うかのように金属ゴーレムを操る魔物が現れる。プレイヤーであれば対処できるのだが、結局はプレイヤー以上の働きはできず自動化は限りなく不可能である、というのが結論になってしまったのだった。


「ここは襲われないんですか?」

「魔導装甲開発部はそんなに大きくないからね。これ以上大きくすると維持できないっていうギリギリ」


 とはいえ常に襲われるレベルではないというだけで定期的に襲撃は発生する。


「黒鉄さんが凄いの持ってるから、それで監視、撃退してるけどあくまで黒鉄さん個人で維持してて、黒鉄さんいなかったら成り立たないんだよ」

「白鋼さん、その黒鉄さんに何かしようとしてるんですよね。大丈夫なんですか?」

「流石にここが壊れることはないと思うけどね」


 ははは、と笑うがミソシラは八の字を寄せており、白鋼ならやりかねないとでも考えていそうだった。実際黒鉄がいなくなったとして魔導装甲開発部が消えてなくなるわけではない。ただ純粋に同じ仕事をこなすために何人ものマンパワーを要求される。13人の既知外、鉄鬼人と呼ばれるのにはそれなりの理由があるのだ。


「っと、結構話しちゃった。お腹空いてない、大丈夫?」


 ココアを飲んでいた事もあって気にしていなかったが、結構な時間が経っているらしい。我慢できないほどではないが、何か食べられるならありがたい。


「そうしたら、魔導装甲開発部の名物料理を持ってくるよ」

「名物?」

「そう、栄養だけ取れれば良いやっていう凄いやつ」


 そういってミソシラは部屋を出て行った。

 鍵はかけていないようだが、今のうちに出て行けということだろうか。ただ、部屋から出たところで脱出はできるか分からない。それにお腹も空いている。


 なら、名物とやらを食べてから考えるとしよう。

 ものすごく不安になる紹介だったが、ミソシラなりのジョークだろうとポーラは不安を飲み込んだ。

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異世界の既知外達 仲宗根虚鉄 @nakasonekotetsu

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