第21話 ピュア

「この短い間に随分苦労したね」


 質問を続けるつもりがいつの間にかポーラのこれまでの経緯へと話が移っていた。

 日数こそ少ないが、魔物にやられ、ベルトルーガに会い、ファスカがやられ、ミフナロウに助けられ…とイベントだけ羅列すれば確かに波瀾万丈であり、それを聞いたミソシラが呆れ半分で労うのもさもありなん。現在も囚われの身でココアを飲みながらミソシラと会話しているのだから何が起こるかなど想像もつかないものだ。


「私は100年くらい前にこの世界に来て、大変は大変だったけど魔導装甲開発部が大きな勢力だったから助かったよ。何百年もの研鑽で使えなくなった知識もあったけど基本的な部分は抑えていたからね。それに比べたら君の何も知らずにっていうのは、確かに珍しいかも」


 サービス終了直前に何も調べずに、というのは確かに珍しいだろう。

 それなりに長かったゲームなのでサ終前にもう一度、とカムバックして囚われたプレイヤーもミソシラは何人か知っているが、多くはこのゲームに人生を費やした剛のものばかりである。

 彼らにとってここはまさに天国、と言えなくもないが、ポーラのは完全に事故のそれだ。

 トラックの衝突事故みたいなものと見れば、異世界転生の要件を満たしている、などと詮無いことを考える。


「ポーラちゃんはピュアなんだね。それは確かに爆弾にできるかも」

「ぴゅあ? 確かに何も知らないですけど」

「ああ、ステータスにほとんど傷がないキャラのこと。死亡1で幾つか消えたけど、討伐0、レベル1ならかなり育成の幅が広い、っていって通じる?」


 このゲームにこそポーラは疎いが、意味はなんとなく理解した。

 つまりは未知という原石がポーラなのだ。


「育成に力を入れてる人たちもいるけどね、プレイヤーの特性は唯一無二なのよ。プレイヤー同士の子供にすら引き継がれない呪い。子供だけ置いていく現実に耐えきれなくて聖教会で眠ることを選んだ人もいるくらいね。それはまあ置いといて、実際に君がレベル1かは分からないけど可能性を最も秘めているのは間違いない」

「今まで会ってきた人はそんなに僕のことを狙ってる感じじゃなかったですけど」


 ベルトルーガは快く送り出してくれたし、ミェルケトとクルーエルによる金貨争奪などポーラは眼中にないようではないか。


「ミフナさんは後からどうとでもなると思ってたんじゃないかな。魔族領にいる限り自ずと戦闘特化のステ振りになるだろうし」


 なるほど実際に、金貨の所有者が決まればミフナロウのお世話になっていた、とポーラは思う。


「ミェルケトは頭おかしいからおいといて、クル様は聖女様だから誰かを特別扱いしないし、ベルトルーガさんも穏健派と、ポーラちゃんは実に運がいい」

「その結果ここにいるんじゃ嬉しくないです」

「ははは、私は嬉しいけど当人からしたらそうだよね。白鋼さんも頭おかしいし、良い人にばかり会ってたら反動もすごいかも」


 運がいいのか悪いのか、恵まれてはいるが手放しにも喜べない。

 そんな複雑な思いが顔に出たのだろう、ミソシラはふっと笑って。


「白鋼さんが何するかはわからないけど、私はポーラちゃんの味方になるって決めたから」


 そんなに強くはないし、いざという時に頼りになるかはわからないけど。ミソシラはそんな前置きを挟みつつポーラの頭を撫でる。

 確かに色々と巻き込まれてはいるが、なにも悪いことばかりじゃあない。少なくともこの世界で困窮極まることはなく、常に誰かに助けられている。

 今もこうやって少しでも不安を解消させようと気を遣ってくれている。善意に支えられている。


「私ね、褐色っていいと思うの。そのうえ白髪で小柄で眼の色も赤みがかって神、めっちゃ尊いんだけど、ねぇそのキャラメイクどうやって選んだの?」


 善意じゃないかもしれない。

 いや、少し踏み込みが強くなったのは、心の距離が近くなったからだろう。

 ポーラはそう思い込むことにした。

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