第20話 お世話係

 言いたいことだけ言って白鋼は部屋を出て行った。拘束はされていないが鍵が掛かる音がしたあたり一応軟禁はされているようだ。外から鍵がかかる仕組みは最初からそのための部屋だからか、それとも閉じ込めておきたい何かがあるからか、倉庫にしても内側からかけられそうなものではあるが。

 とりあえずガチャガチャとドアノブを回してみるがもちろん開かず。体当たりをしてみても多分金属の扉に弾かれて終わりだろう。切羽詰まったら試してみるか、でもそういう時に失敗するとダメージが大きいのだが、そんな事を考えながら今はとりあえず大人しく捕まっておくことにした。

 部屋を見渡せば机と椅子と、机の上に湯沸かし器と飲み物が一式。コーヒー、ココアは先ほど飲んだため悪くなっていることもなかろう。他に何もなく時間の流れが億劫になるが仕方なし、とりあえず水を沸かしてみる。

 コンセントはないがボタン一つで湯が沸くのを見ていた。同じようにボタンを押して暫く、噴き出す蒸気を確認してココアパウダーをお湯に溶く。

 ほっと一息ついてから湯沸かし器の台座をいじくり回してみた。数cmの金属板にボタンのついた箱がくっついているそれ。箱には取っ掛かりがあって、横にずらすと蓋が外れる仕組みだ。中には円柱の石が入っており電気を蓄えそうな見た目ではないが、大きさといい形といい電池のようである。

 しばらく湯沸かし器で時間を潰していると、扉からガチャガチャと音が鳴る。鍵が開けられて扉が開いた。


「新人くんいるー?」


 入って来たのは濃い黒色の長髪の女性。目が隠れるほど長く、後ろ髪もとりあえず縛ったと言ったあまり外見に頓着しないような風貌。サイズに合っていない白衣は、萌え袖といえば聞こえはいいがそこそこ汚れており、みるからに作業衣と言ったところ。背はポーラよりも高く、厚手の服を考慮してもなおスレンダーな印象を受ける。


「君のお世話係を任命されたミソシラだよ、よろしくね」


 人が来たことでとりあえず立ち上がったポーラの前で視線を合わせるように屈んだ女性。

 急な来訪に頭の上で疑問符を浮かべるポーラのおでこをちょんと押して、ミソシラは椅子に座る。

 ココアの準備をして湯沸かし器に水を入れボタンを押したところで、起動しないことに気づいて、ポーラの方を見る。何か言おうとして、あー、と声を上げた。


「そういえばさ、君名前なんていうの? 白鋼さん人の名前覚えないんだよ」


 あと、魔石ちょうだい、とポーラに手を差し向ける。魔石はポーラが適当に外していた円柱状の石だろう。それをミソシラに手渡して名前を名乗る。


「ポーラ・ポーラです、ポーラって呼んでください。あの、質問いいですか?」

「いいよいいよ、お世話係だしね。私もポーラちゃんのこと何も知らないからさ。お互い質問タイムにしよう」


 湯沸かし器のボタンを押して、板の表面が僅かに発光したのを確認して、ミソシラはポーラの方を向いた。


「こんなこと聞いていいのかわからないんですけど、僕は何のために攫われたんですか?」


 白鋼が何かどでかいことをやるために誘拐されたとは聞いたが、具体的な内容は一切が不明だ。拘束こそされていないがここから逃さないような意志を感じる。

 ポーラが持っているものはとても少ない。経験も特殊能力も所持品も。あえていうなら金貨の価値が非常に高いがそれならポーラごと攫う必要はない。そんなポーラで何ができるというのか。


「私はプレイヤーを巻き込んで『伝説』を確かめるって聞いたよ。伝説っていうのは、この世界の変革っていうのかな」


『サービス終了に近い時期にゲームを始めたプレイヤーが現れれば新たな何かが始まる』

 これはベルトルーガからも聞いた話だ。残念ながらポーラの登場で世界に変化はなく、ベルトルーガはそれは無い、もしくはポーラではないと判断した。正確には現時点では判断できないので、世界を巡らせて何かあれば対応するという消極的な対応を選んだ。


「数十年ぶりのお客様だからみんな気にはなってるんじゃないかな。私もそうだしね。煽ろうと思えば幾らでも火がつくと思うよ、みんなイベントには飢えてるから」

「迷惑です」

「ふふふ、ポーラちゃんにとってはそうだねぇ」


 頬を膨らませるポーラの髪をわしゃわしゃと撫でる。


「そんなわけで君は当分は囚われたまま。だからお姉さんと親交を深めようじゃないか」


 次の質問どうぞ。ミソシラは前髪を少しかき上げた。

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