11/30 雲壌/天地
「帝王の首塚ドットコム」は、もうない。私の首塚はなくなってしまった。
ノートパソコンは買い替えることにした。もともと高校時代に買ってもらったもので、どっちみち来年にはOSのメーカーサポート切れで買い替えなければならなかったのだ。
兄に電話をすると、面倒くさそうな声で出た。パソコンを買い替えたいんだけど、と、なぜ兄に電話しようと思ったのか、情報なんとか部門みたいなところに勤めていた記憶があったからか。もうとっくに異動になってるよ、と言いながら、兄は使ってないノートパソコンを一台譲ってくれるのだという。
「スペックそんな良くないけど次までの繋ぎならいいだろ」
「うん」
兄に、「帝王の首塚ドットコム」の話をした。なぜだろう、また「きもいからな」と、さらっと拒絶してくれそうだと思ったんだろう。でも兄は、べつにいいんじゃないの、と、面倒くさそうなトーンのまま言った。
「倫理的にはまあNGって感じするけどさ、バーチャルだろ、本物の首切っちまうのとは天と地ほどの差あるだろ」
「……天と地って、どっちがよくてどっちが悪いんだろ」
「は? うーん、まあ、普通に考えたら天の方がいい方なんだろうけど、まあ、それもそのとき次第っていうか、場合によって違うんじゃないの、知らんけど」
「そっか」
レポートはSDカードにバックアップしてあるしパソコンには大したデータも入ってないけれど、なんとなくもう一度起動した。いつもの癖で、流れるようにブラウザを立ち上げていた。
何が起きたのか、もう存在しないはずの「帝王の首塚ドットコム」の画面が一瞬だけ写った。驚いてマウスから手を離してしまう。あれだけたくさん作った生首はなく、画面の中央には、作りたての頃のような橘さんと思しき生首が一人だけいた。
「ごめんなさい」
震える手で打ち込むと、生首はパクッと口を開いた。
「こん んは」
そして、画面は真っ白になり、生首は、本当にもう喋らなくなった。
〈了〉
帝王の首塚ドットコム 伴美砂都 @misatovan
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