アンスリウム

@nanaseituki

アンスリウム

涼しい夜風が、酔った私を心地よい風で包み込んでくれた。ふらふらしながら私は歩いていた。大きな家の花壇には良く手入れされた。可憐なアンスリウムが咲いていた。その前の電柱には凛と胸を張った一輪のタンポポが咲いていた。

あれはいつだっただろう。春の暖かい教室で何かに期待しながら君を待っていたあの頃を。君は学校中の人気者で私は地味で何の特徴もないシンプルで淡白な花だった。君はいつだって誰にでも優しい瞳で、こんな私でさえも笑ってくれた。誰よりも愛しいその瞳とその優しさに私は一目で恋をした。君に振り返ってもらいたくて無理をしたことも、できないこともやってみたこともあった。高嶺の花という都合のいい言葉で無理をして自分の心に嘘をついたそんなときも多かった。もし神様がいるなら一生をかけて賄賂を贈りたいと思う時もあったことを。そんな日々をその瞬間思い出していた。

私には2つの夢があった。一つは歌を歌い、誰かを救う事、もう一つは君に似合う人になることだった。私には夢を語る資格はなかった。むしろ勝手に決めつけていたのかもしれない。歌を歌っても馬鹿にされたり、背中にレッテルを書かれることもあった。だからこそ、自分を殺して生きていた日々があった。君に夢を語った日。君は暖かい笑顔で手を握ってくれた。私は期待してもう一つを言ってしまそうになったが君の言葉に心が熱くなったんだ。

 運命の人がいるなら今の私は誰を望むだろう。心にぽっかりと空いた穴を、この寂しさを抱えてくれる人を望むのだろうか。あの日の後悔が今になっても心の隙間をズキズキと騒ぎ立てている。私は歌い続けた。そして夢を伝える人になった。君の手を握ったその日から。

いくらお金持ちになれても、周りにちやほやされるようになっても私はたんぽぽのままなんだ。私はアンスリウムにはなれないんだ。結局私は君がいないと何にも変わらないんだと。君が好きだなんて今の僕には言えるのだろうか。私は何も変わらない。想いも、思い出も、夢も。

君は可憐に咲くアンスリウムのように、私は道端に咲くたんぽぽ、こんなにもかけ離れているけれど、私の隣にいてくれないか。君の小さな手を握っていたい。こんな私でさえも君に似合う人になりたい。

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