第19話:イヴのプレセントは、この私。
朝、起きてから祐介もシュシュも一言も口をきかなかった。
そして祐介は学校へ出かけて行った。
天界に帰っていくシュシュを見送りもしないまま。
シュシュは祐介の気持ちが痛いほど分かっていたので何も言わなかった。
志麻子ちゃんもふたりの重い空気の中に入れずにため息ばかりついていた。
そしてついに神様が、この間のように神谷家にやってきた。
「志麻子ちゃん・・・お世話になりました」
「ほんとに、今日までお世話になりました・・・ありがとう」
「元気でね、またいつでもいらっしゃい」
「祐介とはいいお友達でいてやってね」
「麻衣子ちゃんも元気でね」
シュシュは志麻子ちゃんにお礼を言って、祐介ではなく志麻子さんに
見送られながら神様と出て行った。
シュシュは結局、神様と一緒に天界に帰って行った。
祐介は心にぽっかり穴が開いたようだった。
(あの図書室での出会いから、今日まであったことはなんだったんだろう)
(俺は夢を見てたんだろうか?)
なにもかも終わってしまえば、一瞬の出来事のように思えた。
シュシュの存在自体、幻のようだった。
祐介は男だけど、それほど打たれ強いほうじゃなかった。
シュシュのことを思ってため息ばかりついていた。
多分、このままだと祐介はシュシュと失った痛手がトラウマになって行っただろう。
その心の傷をうめる手だては見つからないまま・・・。
シュシュが去ってから一週間経った。
そして今日はクリスマスイヴ。
シュシュのいないイブ。
イブだって言うのに、好きな彼女とも一緒に過ごせないのか・・・。
放課後、祐介は学校の図書室にいた。
シュシュと初めて出会った、この図書室。
もしかしたら、またシュシュがどこかから落ちてくるんじゃないかと期待した。
でも何分待っても、何時間そこにいてもそんなことは起こらなかった。
祐介は広い図書室を見渡して、ひとつため息をついた。
そして、諦めて図書室から出て行こうとした。
するとその時だった。
後ろから声がした。
「祐介・・・」
そう聞こえた気がして、祐介は足を止めた。
たしかに、そら耳じゃなく、祐介って呼ばれた気がした。
祐介は、まさかと思って後ろを振り向いた。
するとそこに、なんと白いサンタの衣装を着たシュシュが立っていた。
「シュシュ?」
「どうして・・・?」
「どうして私がここに、いるのかって?」
「それがね、神様がね、シュシュが一度天界へかえって来た時点で私の汚点は
払拭された・・・だからもう君は自由だって・・・」
「自分の好きなところへ行きなさいって、神様が・・・」
「だから迷わず戻ってきちゃった・・・」
「でも、よく俺がここにいることが分かったね」
「天界にはね、大きなカメに水が張ってあって、それが鏡になっててね、
下界を映し出してくれる大きな水瓶があるんだよ・・・」
「誰が今、どこにいてるか鏡に言うと、その人のことを水面に映し出して
くれるの」
「だから、きっと祐介は私と初めて出会ったこの図書室に必ず来るって
思ってたから・・・」
「そうか・・・」
「でもシュシュ・・・よかった」
「もう二度と会えないと思ってた・・・」
「心にもないこと言ってごめんよ・・・見送らないとか勝手に帰れとか・・・
あんなこと本心じゃなかったんだ 」
「だけど、シュシュを見送ってたら、きっと俺は耐えられそうになかったよ」
「分かってる・・・祐介の気持ち」
「私と祐介との心の糸はちゃんとつながってたんだよ 」
「私、今、めちゃ欲しいもんがあるの」
シュシュは駆け寄ると祐介に抱きついてキスした。
彼女はいつかの時と同じように祐介とのハグとキスが欲しかったのだ。
「あれ、シュシュ背中の羽は?」
「地上で生きていくのなら、羽はいらないだろうって神様がとってくれたの 」
「もうどこへも行かないからね・・・私は一生ユウスケのものだから」
シュシュは満面の微笑みで祐介を見た。
「でも、なんでサンタの衣装なんか着てるんだ?」
「今日はイヴでしょ・・・祐介へのプレセントは、この私」
祐介はもう一度思いきりシュシュを抱きしめた。
「ちょ、ちょっと・・・苦しいってば」
「あ、ごめん、抱きしめてないとまた天界に帰っちゃいそうで」
「じゃ〜ずっと抱きしめてて・・・」
「シュシュ・・・」
「祐介愛してる・・・祐介・・・彼女が天使なんて、めっちゃレアだよ」
「大切にするから・・・俺の命に代えて・・・」
シュシュの瞳からは嬉し涙がこぼれ落ちて差し込む日差しに照らされて
キラキラ輝きながらダイヤモンドに変わった。
おっしまい。
堕天使は微笑まない。 猫野 尻尾 @amanotenshi
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