三章・好きは誰かの重荷
第8話 部長の苦労
「ケイト飲み込み早いね、スポンジみたい!」
「スポンジはあんま嬉しくないかも」
しばらく見ない内にケイトちゃんと篠原さんが仲良くなってるね。先週ケイトちゃんにアドバイスをもらいに行かせた作戦は大成功みたい。
あとは葦田くんと権田さんもあんな風になってくれたら嬉しいけど、もう少し時間かかりそうだね。
ここ一週間ケイトちゃんを観察してみた結果、わかったことが二つある。
一つ目、彼女は全くブレない……あ、手の話ね。
最初に気づいた時はびっくりしちゃったなぁ、医療用の繊細機器かと思うほど細かい振動を全くしないんだから。
そのおかげで彼女はフリーハンドで定規並みの直線を引けてる、ちょっと羨ましいかも。
二つ目、わかりにくいけど笑顔が増えたね。笑うのが下手だけどそこがまたかわいい。
相変わらずクールだけど、その内側は少しずつ丸みを帯びるようになった。
「愛」を知らない少女。
彼女ならきっと見つけられる、部長の座を賭けてもいい。
密かに楽しみなんだよね、ケイトちゃんが「愛」と「好き」を見つけ出す瞬間。その瞬間で得られり幸福を上回るものは存在しない、私は知ってるから。
「……すみません、お邪魔します〜〜」
見知らぬ大人たちと校長先生が美術室に入ってきた。
彼らの姿を見た途端、鮮やかな思考が黒一色に塗り染められた。
「部活中ごめんね、ちょっと鷹過部長来てもらえないかな?」
「あ、あの、部長」
「……大丈夫聞こえてる。はぁ……一年生と二年生、わからないとこあったら三年生に聞いて。ちょっと離れるけど、もしいじめられたら私にチクってね! あとでボッコボコにするから」
美術室の入り口へ向かいながら部員たちへの指示を出す。
新入部員の子たちは不安げな視線を向けてくるけど今は無視、変に反応すると不要な心配をされる。
校長や大人たちと一緒に職員室前まで行くと、カメラとマイクを携えたスタッフが数人待機していた。
「校長先生、約束忘れました?」
「す、すぐ終わるインタビューだから……ごめんね、部活の邪魔はしないから少しだけ答えてもらえない?」
「もう邪魔してますけどね……何度も言ってます、学校にいる間の私は普通の一生徒です。取材したかったらアトリエのほうでアポイントを取ってください」
「そう言ってもアトリエのほうのアポは毎回断ってるじゃないか……」
「ええ、美の追求にマスコミは不要なので」
「…………」
「…………」
場の雰囲気は北極の雪山並みに冷え切った。
だがこれは私の責任ではない。
一年の頃、私は
あの一件があって私はまた絵を描きたくなったんだ。
みんなを引っ掻き回した自覚はある、だから責任取って退部しようと思ったんだ。でも、校長先生は学校のために辞めないでほしいと懇願してきた。
そんな校長先生に私は二つ条件を出した。
美術部の活動方針は私が決めることと、学校では画家・鷹過一心の孫として取材を受けないこと。
それなのに、満面の笑みで承諾した校長先生は新学年始まって1ヶ月も経たない内に約束を破ろうとしてる。
ブルブル、ブルブル、ブルブル。
ポケットに入れてたスマホに着信が入った。
「……電話終わったら5分だけ質問に答えます、それで勘弁して」
「鷹過部長、本当にありがとう!! ごめんね、できるだけ手短めに済ませるからね」
準備を始めるムカつく大人共から少し離れて電話に出た。
出た瞬間子供特有の爆音あいさつが飛んできて、思わずスマホを耳から遠ざけた。
「ねねねね!! トモエ姉ちゃんいつくんの!? もう前の宿題描けたぜ! 早く見に来いよー!」
「アンタうるさすぎだかんね、ガキんちょ……そういえば四月は忙しくて全然行けてなかったわ」
「じゃあじゃあさ、今週来てよ!」
「はいはい……あ、そうだ! キレイなお姉さんもう一人連れてくね!」
よし、今週末はケイトちゃんと一緒にガキんちょの家でデートだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます