第3話 チャイムとサンドイッチ
昨日美術部の誘いを断ったけど、
入りたい部活なんて一つもない、だが部活体験期間はまだ一週間もある。ひとまず運動部も文化部も全部回ってから考えよう。
通学路でそんなことを考えながら交差点に着く。
ピーポ、ピーポ、ピーポ。
信号の音が聞こえたので前へ進もうとしたその時……
「……危なっ!」
呼び声が耳に触れると同時に腕を掴まれて後ろに引っ張られた。バランスを崩しそうになったが、背後にいる誰かが支えてくれた。
次の瞬間、私が歩くはずだった横断歩道にトラックが通り過ぎた。
「信号まだ赤ですよ! 大丈夫?」
「すみません、ありがとうございます」
赤だったんだ。
信号音が流れてたからてっきり青になってるかと思った。どうやら水吏街は実家の地方と真逆のタイミングで音を流してるらしい。
色なんかじゃなくて矢印とかのマークで知らせてくれってつくつく思う。
助けてくれた同校生にお礼を伝えて、さっさとその場から離れることにした。
会話をしたくない。
色を見られないことを知られたくない。
二十分後。
教室に入るや否や、まだ話したこともないクラスメイト全員が一斉に私を注目しだす。
「な、なに事?」
「おっはよーーー! 待ってたぜ、ケイトちゃん」
聞き覚えのある声が教室中に響く。
美術部部長の
「…………」
恥ずかしい。
子供の頃、姉が授業参観に来てはしゃいだ時の記憶が蘇る。
顔が今にも恥ずかしさで溶けてしまいそう。
「な、何やってんの先輩!?」
「ケイトちゃんを待ってた! ついでに今年の後輩ちゃんくんたちの顔を見とこうってね……そういうわけで、美術部に入って! お願い!」
「は? だから入んないって言ったじゃん。てか一年生の教室に入らないでよ」
「校則違反じゃあるまいし、休み時間なんだからどこに居ようと構わないっしょ?」
私と先輩が会話を重ねるたびに、周囲の噂話の声が比例して増えてく。
「もう先輩とタメ口で話してる!」
「何アレ? 知り合い?」
「あの子名前なんだっけ? 大人しそうに見えてやばくね?」
これ以上注目されたくない私は先輩の腕を掴んで教室外まで連れ出す。
昨日の時点で先輩はマトモじゃない予感してたけど、変人具合がゆうに想像を超えていく。
一体どんな思考回路してるんだこの人、色見えないヤツにどう絵を描けってんの。
「もう来ないで」
「美術部に入ってくれたらね」
「こんな敬語も使えないクソ後輩だよ」
「女の子はツンツンしてるぐらいが可愛いよ」
「ッチ……昨日の話忘れたわけ? 私なんかじゃ無理だって」
「もちろん覚えてるよ。それにこの私を動揺させたケイトちゃんは「なんか」じゃないぜ! ケイトちゃん言ってたよね」
「は?」
「「あの先輩方に憧れるのは失礼だ」って……それってさ、本当は憧れたい人の言葉だよ。ケイトちゃんだって本心じゃ入部したいはず」
「私は」
キーン〜コーン、カーン〜コーン。
まるでそれも計算内のように、チャイムは先輩の代わりに私の否定の言葉を遮った。
先輩は慌てて包装に残った一つのサンドイッチを私のジャケットのポケットに突っ込む。
「口つけてないから食べちゃっていいよ! それじゃ、また来るね!」
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