第2話 瞳と愛
また同じだ。
私のことよく知りもせずに勧誘をしたのは先輩が悪い、それなのにまるで傷つけたのは私みたいでムカムカする。
「えっと……キッチンタイマーつけて」
今年から一人暮らしの私は自分で夕食を作っている。
お肉はいつも決まった種類を買って、タイマーで決まった時間分茹でてから調理する。
肉の焼き具合を確認できない私にとってこの工程は必要不可欠。
この青井ケイトには嫌いなものが二つある。
一つはこの
他の人は「色」というよくわからない感覚を確認できるらしい。彼らはそれで各々の「好き」を共有する。
子供の頃、クラスの男の子から戦隊ヒーローを勧められた。
5人のヒーローが全部同じ灰色に見えて違いがわからなかった。
魔法少女ものを勧められたこともあった。
全員変身という名の「お着替え」をしただけでワクワクはしなかった。
アイドルグループが可愛いと勧められることもあった。
結局最後まで誰が誰だかの区別をつけられなかった。
空気を読んで共鳴することがあっても心から共感することは決してない、その積み重ねで私は悟った。
「好き」を見つけられて熱中できる他人と違って、私の瞳は夢中できるものを探せない。
「好き」という気持ちをよく知らないくせに嫌いなものだけはハッキリとわかる、自分に害をもたらすものだけは鮮明に記憶する。
「……油絵描いてた先輩たち……カッコ良かったな」
汗と雑音、そして時間の経過にも気づかないほど集中していた人たち。
本気になれる憧れの人たちを目の前にして自分は決してそれになれない、何度経験しても慣れないし耐えられない。
「……? 着信?」
出来上がった料理を皿に盛り付けてからスマホを取り出す。
姉からのメッセージだ。
14歳も離れた姉こそ私のもう一つの嫌いなもの。
私が嫌っているように彼女も私のことが嫌いだ。
両親を亡くした幼い私に遺された肉親は姉しかいなかった、だから彼女は嫌々責任をとっただけ。
食事はいつだって私の嫌いなものを入れてくるし、勉強できないくせに勉強はさせてくる。部屋には勝手に入り込んで私のものをパクるのに、自分のものを無くした時は大騒ぎする。
早く大人になりなさい、それが姉の口癖。
高校は一人暮らしすると言ったら即答で了承してくれた。
厄介者を追い出せて嬉しかったんでしょうね。
姉は私のことが嫌いだ。
それなのに、彼女を思い出すといつもあの言葉に辿り着く。
全ての荷物の積み込みを終えて、長く暮らした実家から出ようとした時……
「ケイトのこと、心から愛してる」
彼女は意味不明な言葉を私に残した。
私が嫌いなのに姉はなぜか真逆の言葉を残した。
元々理解できなかったけど、「好き」と「愛」のことがますますわからなくなった。
だから知りたくなった、「愛してる」とは何か。
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