昆神ヘルムー ~力の戦士~

虫島 光雄

第1話:かわったお仕事

「ドゥーッ♪、ドゥウドゥ♪、ドゥードゥー♪」

 城下町と平野とを隔てる門の屋上にて、独特のリズムを刻みながらそよ風に当たり、座ってぶらぶらくつろいでいる男が一人いた。

「ドゥールル♪ルルル―♪ルー…おっと、やあ読者の皆こんにちは!俺はカーネ、カーネ=エル=ディナストゥスだ!この辺りで農業をやっている。ニンジン、ジャガイモ、トマト、リンゴ、バナナなど野菜や果物を育てては店に納品しているのさ。…え?なんで俺みたいな農民なんかが物語の主役をやっているのかだって?…実は俺にはもう一つとある仕事をしていてな、まあ副業ってヤツ?それをやる為に今こうして門の高台に居座っているって訳、その副業ってのは―」

 ガッシャーッ‼

 男が喋ってる合間に、下の方から凄まじい物音が響いた。

「キャー!強盗よ!」

「馬車だ!馬車で逃げていくぞ‼」

 門の屋上にいる男は騒ぎに気付いて下方を観る。

「おおっと、どうやら仕事の時間の様だな」

 馬車は猛烈に速度を上げ、門に突っ込んでくる。門は町の人々が頻繁に出入りしている為開きっぱなしだったのだ。

「門を閉じろ!奴らを行かせるな!」

「駄目です!間に合いません!」

 門番の兵士二人が急いで門を閉めようとしているが、どう見ても間に合いそうにない。

「さぁて行くとするか、おっと、さっきの話の続き何だが俺の副業は…」

 屋上の男はそう言いながら、服の内ポケットから、何やらアイマスクのようなものを取り出し、顔の上半分にはめた。

 カシャーン

 そのマスクは、顎や後頭部など顔全体をすっぽりと覆うように変形し―

「悪人退治さ!」

 マスクで顔を覆った男はサッと左手を腰脇に、右手を正面に突き出すよう構え―

「変身!」

 と叫んだ。すると、男の姿が見る見るうちに変化していく。頭は後頭部の方から長い一本角が天に向かって長く突き出し、額の方からは短く少し湾曲したもう一つの角が飛び出した。肩から胸、腹と装甲がガシ、ガシ、と伸びてきて体を覆い、腕にはガントレットが装着され、足腰にも装甲が装着された。

「よし、変身完了!それじゃ仕事に行ってきまーす!」

 そう言うと、男は身を乗り出して屋上から勢いよく飛び降りていった。


 一方、門の下では門番である兵士二人が、いとも簡単に蹴散らされていた。

「門番はやったぞ!」

「よし、このまま逃げ―」

 グシャアアアア

 馬車の荷車の屋根が大きく崩れ、空が丸見えになった。中にいた盗賊の何人かは落ちてきた何かに下敷きになった。

「な、何だ⁉」

 落ちてきた男は、なんてことは無くピンピンしており、で馬車の中にいる盗賊の人数を数える。

 四人。盗賊たちは、剣を持って落ちてきた仮面の男に襲い掛かる。

「うおりゃあああああ!」

「ヤァ!」

 仮面の男は振りかかってきた盗賊の腕をつかみ、剣の一振りをかわすと、盗賊を掴んでその場で投げ飛ばした。

「うわああああああ!」

 盗賊は馬車の荷台から飛ばされ、地面へ転げ落ちていった。しかし、別の盗賊がまた仮面の男の襲い掛かる。今度は二人がかりで、仮面の男を囲うように立ち回った。男は正面の盗賊がナイフを持って振りかかるのを観るとすぐさま対応し、ナイフの連続攻撃をチョップで受け流す。しかし、すでに後ろで構えていたもう一人の盗賊が、剣を大きく振りかぶって仮面の男に襲い掛かる

「ぬううおおおおおおお!」

「ッ!トラースキック!」

 仮面の男は、剣を持った盗賊の顔を蹴り飛ばし―

「ソバットオオオオ!」

 今度は回転蹴りで、前にいた盗賊の持っているナイフをはたき落とした。

「へ、どんなもんよう!ウゴッ!」

 仮面の男が調子に乗っていると、三人目のガタイのいい盗賊にタックルされ、金貨が山澄になった荷台に突っ込む。

「痛ってえ、金貨って固いんだねえ」

 仮面の男が喋っていると、剣を持った盗賊が再び大きく振りかかり、仮面の男の首をはねようと襲い掛かる。しかし、仮面の男はすかさず横に転がって回避し、足払いで剣を持った盗賊の体制を崩す。

 仮面の男は起き上がって迎撃しようとした。だが、ふと横を観ると―

「ふううううんんんん‼」

 バキィッ!

 何かが割れるような音がし、仮面の男が倒れた。ガタイのいい盗賊が、仮面の男の顔に渾身の右ストレートパンチを決めた。しかも、ただのパンチではなく魔力を込めた一撃のパンチであり、壁をも吹き飛ばすほどの威力だった。

「フンッ」

 ガタイのいい盗賊は勝ちを確信したのか、思わず鼻で笑った。

「…ううううん、いいパンチだね君」

「ッ‼何⁉」

 ふと振り返ると、倒したはずの仮面の男がけろっと立ち上がっていた。

「顎骨が折れたかもしれないな」

 ゴギッ、グギッ。

 仮面の男は顎や首の骨を元に戻すように捻る。

「……」

 ガタイのいい盗賊は冷や汗をかいて沈黙していた。

「…ふう、それじゃあお返しね!」

 バキィ!

 仮面の男は渾身の右ストレートを盗賊にお見舞いした。

「ぐわあああああああ!」

 ガタイのいい盗賊は、馬車の荷台から飛ばされていった。

「うおりゃあああああ!」

 仮面の男は再び剣を持った盗賊と対峙する。その隙に、ナイフを持った盗賊が後ろで待機していた。

「っん⁉」

「死ねええええええ!」

「危ない!」

 仮面の男はその場でシュッとしゃがみ込み、盗賊が投げたナイフをギリギリ避けた。

「ッごはぁ!」

 投げたナイフは、最悪なことに馬の手綱を引いていた盗賊の後頭部に命中し、即死した。

「うおりゃあああああ!」

 再び盗賊が剣で振りかかろうとすると、仮面の男は盗賊の腕を掴み、膝を曲げて足をかけ、盗賊の下に潜り込み、そのまま蹴り投げた。

「ぐわあああああああ」

「がはあ」

 投げ飛ばされた盗賊は、後ろにいた盗賊に命中し、残っていた盗賊二人とも倒れた。

「…ふう、こんなもんか、よし、仕事は終わ、うわ!」

 馬車が大きく揺れた。既に手綱を引いていた盗賊は死んでおり馬が暴れだし、馬車は制御を失っており、次の瞬間、馬車が大きく横に傾いた。

「……あ、やべぇ…キャベツの納品してなかった…」

 ガッシャ、ガッシャ、ガラララララ、ギャシャアアア。

 馬車はとうとう態勢を崩し、二転三転と横転していった。


「…なっ何だ!、この状況は⁉」

「盗賊が金貨を強盗したとの報告を受けて来たってのに、仲間割れでも起きたのか?」

 遅れて、城上町の治安を守る騎士団がやって来た。騎士団は、恐る恐る横転しぐしゃぐしゃになった馬車の荷台の中を観る。

「…荷台の中は二人だけか。」

「その様ですね、来る途中に地面に転がっていた盗賊も何人かいましたが…」

「うむ、金貨は全部荷台の中にありそうだな、よし、すべて回収しよう」

「了解」

 騎士団達は、荷台にある金貨を回収し始めた。その様子を、茂みの奥からずっと観察している男が一人いた。

「はあ、まあこれにて一件落着か、とまあこれが俺の副業さ。こうしたちょっとした悪人退治をしているって訳さ。あ、でも俺の正体は読者である君と俺との秘密だぞ!色々と正体をバレる訳にはいかないからな。それにしても納品忘れるとは…トホホ。こりゃ店主に怒られるな。それじゃ読者の皆、またいつか、バウイビー!」

「…ん?」

「どうした?」

「あっちの茂みの方に誰か…あれ?」

「…誰もいないぞ。見間違いじゃないか」

 茂みの方にはもう誰もいなかった。

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