第7話 三学期・3

 終業式の前日、絵梨奈はふと口を開いた。

「意外と早い一年だったわね」

「めちゃくちゃ濃い一年だったからね」

 実砂もいろいろ思い出しながら、溜め息を吐きながら答える。

「ねえ、安藤くんは春休み、合上さんとデートでもするの?」

「はい?いや、まあ会うけど……」

 訝しげに答える順司に、さとるは笑顔を浮かべた。

「じゃあ、俺も着いて行っていい?」

「いい訳ないよね!?え!?なに、その考え!怖い!」

「ほんっとに邪魔な男ね!」

 相変わらずの絵梨奈のツッコミに、さとるはニヤニヤしながら答えた。

「山川さんもよく邪魔してるから、大して変わらないでしょー」

「私のどこが邪魔よ!あなたはいい加減、実砂を諦めなさいな!他に取り巻きの女子たちがいるでしょ」

「うーん、言い方。でもさ、合上さんと一緒で、山川さんも俺に興味ないよね」

「はい?あなたに興味を持ってほしかったの?」

 絵梨奈がドン引きしながら問う。

「山川さん、お嬢様だから性格キツめだし、世間知らずなのかなって思う部分もあるけど……でも、見た目は華やかなタイプだから、モテると思うんだよね」

「……なんですって?」

 失礼な物言いをされて、絵梨奈は苛立ちを隠さずに声を出した。

 その様子を黙って見ていた実砂は少し考えてから、さとるに向き合った。

「もしかして土木くん……絵梨奈のこと、好きなの?」

 実砂の言葉に、さとるも絵梨奈も「え!?」と声を合わせて振り向く。さとるはそのまま絵梨奈を見ると少し固まった。

「いや……だって山川さん、いつも俺のこと顔は良いって褒めてくれるから……むしろ、俺に気があるのは山川さんの方じゃない?」

「そっ、んな訳ないでしょう!?私は安藤くんぐらい優しい人の方が好みよ!あなたはただ、顔が良いだけって話でしょう!?」

「そんな言い方しなくても良くない?俺だって山川さんは顔が良いからもったいないって話をしてるだけだけど?」

「なんですって!?あなた、誰に向かって言ってるのかしら!」

 再び言い争いを始めた二人を、冷めた目で見ていた実砂だったが、隣にいた順司に思わず声をかけた。

「結局あの二人、なんだかんだで仲良しじゃない?」

「んー、似た者同士なんだと思うよ。それに、喧嘩するほど仲が良いとは言うよね」

 順司の言葉に、今まで口論をしていた絵梨奈とさとるがくるっと振り向いて、「そんなことない!!」と息の合ったツッコミをし、少しビビった順司が「ひっ」と声を上げながら実砂に隠れた。

「いっそこうなったら、二人でデートでもしてくれば?」

 実砂の提案に、ぎょっとした絵梨奈とさとるは再び「はい?」とハモる。

「そこまで言うなら、ちゃんと話し合ってお互いのこと、深めた方が良いと思うけど」

「実砂!この男はお断りよ!」

「俺もできるなら合上さんとがいいな!」

「いい加減になさいな!」

 また言い争いを始め、「やっぱり仲が良いじゃん」と周りが思ったのは言うまでもない。


 翌日、終業式の日。

「と、いう訳で、合上さんの意見を取り入れ、一度デートすることにしてみました」

 突然のさとるの告白に、順司は驚いて目を見開いた。

「ほ、本気で?よく山川さんがオッケーしたね」

「これであなたの本性暴いてやるわ!って言われたけど」

「あー、納得」

 そう言いながら順司は、実砂と絵梨奈の方に視線を向ける。

 絵梨奈は絵梨奈で「仕方がないから一度出かけるだけよ!」とか言いつつも、実砂に服の相談をしている辺り、これは意外と上手くいくのでは、と思う順司。

 実際に実砂も、「これは春休み明けには進展してるんだろうね」と順司にぼやいていたぐらいだった。

 まさか、始業式の日に「付き合いました」報告が来るとは露知らず。

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