雪まみれ

金沢出流

雪まみれ

 雪が降っている。彼は待っている。そして彼は知らない。2015年2月8日、記録的な積雪により東京という都市は雪に包まれた。そのような日にいつものように彼女の仕事が終わるのを彼は待っている。高田馬場の駅前だ。駅の中で待っていればいいところを彼はその珍しく降り積もる雪に魅せられて、雪の降るなかでそれを浴びながら彼女を待っている。彼は雪のあまり降らない横浜の育ちであるからこのような大雪の経験はない。雪まみれだけれどもそこまで寒くはない。冬の雨の日のほうがいっそう寒いと彼は思いながら雪を纏っている。彼は知らない。彼女はテレアポの仕事をしているのだと彼女の言葉がそうと言っているのだから当然そうなのであろうと疑いもなく信じきっているのだが、実際には彼女は風俗業に従事しているのだということを知らない。彼がニートであることを心配した彼女が彼に紹介した日雇い派遣事務所の所長がその風俗業での客であることだってもちろん知らない。

 雪が降っている。彼は雪まみれである。彼女は二十歳で。彼は十五歳。同棲中のどこにでもいるカップルでどこにでもいる風俗業従事者と中卒のほぼニートといって差し支えない日雇い派遣労働者である。

 彼は雪を愉しみ春の雪解けをも愉しみにしていた。

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雪まみれ 金沢出流 @KANZAWA-izuru

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