第247話 コボルト族がやってくる

「えっと……」

「おや、これはこれは……コボルト族ではないですか」

「ニャーゴさん!」


 ちょうど休憩時間だったのだろう。何やらボクたちが騒いでいるのに気がついたのであろうニャーゴさんが、ボクたちのところへとやってきた。

 やっぱりコボルト族だったみたいだな。きれいに隊列を組んでおり、ものすごく統率が取れている集団のようである。


「初めまして、世界樹の守り人様。私はこの一団の団長を務めさせていただいている、ワンダと申すものです」

「ワンダさん、ノースウエストの領主のリディルです。ワンダさんたちも、世界樹さんから話を聞いてここへ?」

「その通りです。ここに安息の地があると聞いてやって来ました」

「また大げさな……世界樹さんは話を広げすぎる傾向にあるな」


 世界樹さんの勧誘はとてもありがたいけど、妙な期待をみんなに持たせるのはどうかと思うんだよね。もしそれが違った場合は、みんなをガッカリさせることになるだろう。

 その結果、ノースウエストから住人が去って行くとか、ボクは嫌だからね。


「あの、どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもないですよ。すぐに家を準備しますので、それまではこの屋敷に住んでもらうことになると思います。不自由をさせてしまいますが、少し我慢していただければありがたいです」

「我慢なんてとんでもない! 雨風をしのぐことができるだけでも十分ですよ」


 なんだろう、コボルトさんたちは、ずいぶんと厳しいところで生活をしていたのだろうか。そういえばよく見ると、なんだかみんな薄汚れているような気がするな。これはまずはお風呂に入ってもらった方がよさそうだ。


「どうしたの? なんだか騒がしいみたいだけど」

「アリサさん、いいところに!」

「え、何? コボルトじゃない! やっぱりあなたたちも来たのね。歓迎するわよ。コボルトは鼻がよく利くから、警備や追跡役にピッタリなのよね」


 そうなんだ。確かにイヌみたいな見た目をしているし、鼻はよさそうな気がする。それならコボルトさんたちには、ノースウエストの警備にあたってもらおうかな? もちろん、それ以外にも、やりたいことがあるなら、それをやってもらうつもりである。


 アリサさんに頼んで、まずはお風呂に入ってもらうことにした。その間に、フェロールとニャーゴさんと一緒に部屋の準備をする。

 新たに住宅地を作って、そこへドワーフさんとエルフさんたちに移り住んでもらっていてよかった。どうにか不自由をさせなくてすみそうだ。


「これはまだまだ住宅地を広げる必要がありそうだね」

「そのようですな。人族の住人は増えませんが、他種族の住人はこれからもますます増えていきそうですね」

「リディル様、俺も手伝うぞ」

「ありがとう。でも、いいのかな? ローランドくんはお客様なのに」

「気にするなよ。今の俺は、もうノースウエストの住人だからな」


 そう言って、とてもいい笑顔をしているローランドくん。

 冗談だよね? 本気でノースウエストの住人になろうとしていないよね? そういえば、いつもノースウエストの学校をうらやましそうに見ているような気がする。学校の工作室には絶対に寄って行くし。


 ローランドくんがノースウエストへ移り住むなんて言い出したら、カリサ伯爵が悲しむことは間違いないだろう。恨まれるかもしれないな。なんとしてでも、それは阻止しないと。期間限定のノースウエストの住人として、特別扱いしておかないとね。


「ミュ」

「そうだよね、ミューもちょっと困惑するよね」


 そうしてローランドくんにも手伝ってもらいつつ、コボルトさんたちの部屋を準備した。ようやく一息ついたころで戻ってきた、アルフレッド先生とデニス親方、ルミ姉さんにも、コボルト族が住むことになったことを話した。


「ほう、ついにコボルトまでやってきましたか」

「ついにって、コボルト族って、もしかしてかなり希少な種族だったりするのですか?」

「希少になりつつありますね。それよりも、ケットシー並みに警戒心が強くて、出会うことさえ難しかったりするのですよ」

「エルフ族でもですか!?」


 これは驚きだ。人族が出会えないならまだ分かるけど、森の番人と呼ばれているエルフ族でさえ、なかなか出会うことができないだなんて。そしてそんな種族が、ノースウエストの住人になりたいと言って、ここまでやって来たのだ。どれだけの苦労や迷いがあったことだろうか。


「コボルトは山の中に穴を掘って、そこで暮らしているからな。文化的な物はほとんどないし、着の身着のままなんだよな」

「なんだかドワーフ族と似たところがあるけど、ドワーフ族でもあまり会うことがないんだね」

「穴に住む者同士だが、そこはやっぱり縄張り意識みたいなものがあるからな。それに、ドワーフが穴に住むのは最終手段だ。好んで住んでいるわけじゃねえぞ? 家があるならそこに住む」

「そうッスね、お兄ちゃんの言う通りッス。まあ、大体の場合、コボルトたちがいつの間にかいなくなるッスけどね」


 そうだろうね。コボルト族は鼻がいいみたいだからね。お風呂に入らないドワーフ族とは、相性が悪いような気がする。でも、コボルト族もあまりきれいにしていなかったよね? 自分たちの匂いには大丈夫なのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る