第246話 ローランドくんのマジックバッグが完成する
その後もローランドくんはブドウジュースを出し入れしていた。その隣でボクは冷蔵庫の中から冷えたブドウジュースを取り出して、ミューへ渡す。だって、そんな欲しそうなつぶらな瞳で見られたら、あげるしかないじゃない。
「ローランドくん、今度はローランドくんが作ったランプの魔道具を使ってみようよ」
「お、そうだったな。うれしくて忘れるところだった。ありがとう、リディル様。宝物にするよ」
「そんな、大げさだよ。でも、大事にしてくれたらうれしいかな」
そうして今度はローランドくんが作ったランプの魔道具を、一緒に使ってみた。ちょっと震える手でローランドくんがランプの魔道具のスイッチを入れると、パッと明かりが点灯した。これは間違いなく、成功だね。
「ちゃんとランプの魔道具になっているみたいだね」
「本当だ。なんだか感動的だな。まさか一つ作るだけでも、こんなに時間がかかるとは思わなかった」
「それでもちゃんと完成させることができたんだから、ローランドくんはすごいよ。もう立派な魔道具師だね」
「そうかな?」
照れた様子のローランドくん。それは間違いないと思うぞ。惜しむべきは、ローランドくんは伯爵家を継がなくてはならないので、魔道具師にはなれないということだね。そんな時間はないと思う。毎日、少しずつ作るのなら、物づくりを続けることはできそうだけどね。それでも趣味の領域を出ることはないだろう。
ボクがこうして物づくりをしながらノースウエストを統治することができるのは、ボクの所有している領地がここだけであり、小さいからだ。それに、フェロールを始め、多くの人がボクの代わりに領地を運営してくれているからである。子供のボクではどうにもならないことばかりだからね。
「よし、次はフェロールのマジックバッグを作らないとね」
「もう一つ、作るのか? それなら俺も、今度は火種の代わりになる魔道具を作ろうかな」
今度は火種の魔道具か。それもいいね。ローランドくんがいつまでノースウエストにいるのかは分からないけど、カリサ伯爵家へ戻るまでに完成するといいね。ボクもローランドくんを見習って、しっかりとマジックバッグを完成させないといけないね。
ノースウエストに設立した学校には、子供たちだけでなく、学校へ行くことができなかった大人たちも通うようになった。最初は子供たちに混じって学ぶことを恥ずかしく思っているような感じがあったみたいだが、それもすぐに慣れたようである。
「まさかボクが校長になるだなんて。何もできないのに」
「いいんじゃないのか? 名前を貸すのも立派な仕事だって、お父様が言っていたぞ」
「そうなんだね。それならしょうがないか~」
気がついたら、なぜかボクが学校の校長になっていた。学校の中庭にボクの銅像を建てる計画があったみたいだったので、それは全力で回避した。
ローランドくんはなぜか残念がっていたけど、ボクは嫌だからね?
気になる先生の数だが、現在は問題なく、回せているようである。でも、子供たちや大人たちが学校に通う様子を見て、「自分たちも通いたい」という声があがっているらしい。
これは校長として、一肌脱がなければいけないな。
そんなわけで、エルフさんたちに、新しく先生にならないかとスカウトして回っている。手をあげてくれているという話を聞いているので、近いうちに新たに先生が加わることになるだろう。
そうなると、心配になってくるのが働き手の問題である。
「ずいぶんと効率化できるようにはなっているけど、学校に通いたい人が増えれば、人手が不足するよね」
「ノースウエストは人口問題があるな。ノースウエストからの道があちこちにつながっていたらよかったんだけど、隣町だけなんだよな」
「そうなんだよねー」
困った困った。最近では隣町からサリー嬢がよくノースウエストへくるようになっており、隣町との交流も盛んだ。だが、ノースウエストへ引っ越してくる人族はほとんどいない。やっぱり辺境にあるからなのかな? でもこればかりはボクの力ではどうすることもできないし。
「できたぞ。これでフェロールのマジックバッグも、もっと使いやすくなるはずだ」
「早いな、リディル様。俺のマジックバッグを作ったときよりも、ずっと早くなってる。俺の方はまだ完成しそうにないのに」
「まあ、同じ物を作っているだけだからね」
本当は前世、前々世、さらにそのまた前世の記憶があるから、手先が器用で、記憶力が高いだけなんだけどね。でもそれはローランドくんにはまだ言えないのだ。
完成したマジックバッグをフェロールにプレゼントするべく、フェロールを探す。
お、ちょうどこっちへ来ているみたいだね。
ん? なんだろう、あの後ろの犬のような生き物は。もしかして。
「フェロール?」
「リディル様、その、新しくノースウエストへ移住したいという方たちが参りまして」
眉を下げるフェロール。フェロールの後ろに続く者たちを見て、ローランドくんの口が開きっぱなしになっている。
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