第243話 学校が完成する

 デニス親方のその回答に目を輝かせたのはボクだけではなかった。ローランドくんの目が、夜空に輝く一番星のように輝いていた。

 これはもしかして、教えてはいけない人に教えてしまったかもしれない。これでローランドくんが魔道具作りに熱中して、領地運営を怠るようなことになれば、カリサ伯爵に怒られるかもしれないな。これはなんとかしなければ。でも気になるな。


「ああ、だが、俺たちがやっているように、魔力を使って魔法文字を書くのに比べると、格段に耐久性が劣るけどな。それに細かい文字は書けないから、複雑な魔道具も作れねぇ」

「そうなんだね。それでもどんな物なのか見たいかな?」


 そんなことを話していると、俺たちの会話が聞こえたのだろう。ニャーゴさんがボクたちのところへとやって来た。


「話は聞きましたよ。こちらがその道具になります。銀を原料にして、様々な素材を組み合わせて作った、特殊なインクですね。人族が使っているインクよりかはずっと耐久性はありますが、半永久的というわけにはいきません」

「なるほど。それじゃ、もしかして、魔力で書いた魔法文字は半永久的に残るのですか?」

「消したりしない限りはそうですよ」

「知らなかった」


 でもそういえばそうだよね。アルフレッド先生が持っているマジックバッグは、先祖代々受け継いでいる物だと言っていた。そうなると、どれだけ昔に作られたマジックバッグなんだよってことになるよね。


「ニャーゴさん、それって俺でも使うことができますか?」

「もちろんですよ。ローランドくんもやってみますか? ただ、ものすごく粘り気があるので、とても使いにくいですけどね」

「それでもやってみたいです!」


 だから細かい文字が書けないのか。ネットリとしていたら、細い文字を書くのは大変だろう。それに何度もインクに筆をつけないといけないのかもしれない。これは根気がいる作業になりそうだぞ。


「リディル様、どうしますか?」

「うーん、デニス親方、一番簡単な魔道具って、ランプの魔道具なの?」

「そうだな、役に立つ魔道具で一番簡単なのは、ランプの魔道具か、点火の魔道具だろうな」

「どうせ作るのなら、役に立つ魔道具の方がいいよね。ローランドくんはどっちを作りたい?」


 腕を組んで考え込み始めたローランドくん。これなら二択になるので、どちらか一つを作れば、それで満足してくれるかもしれない。迷ったあげく、ローランドくんはランプの魔道具を選んだ。これならローランドくんの部屋に置くことができるからね。いい記念になることだろう。無事に完成すればの話だけどね。


「それじゃ、俺がランプの魔道具の作り方を教えてやろう。坊主はマジックバッグを作るんだよな?」

「そうだよ。それじゃ、デニス親方、ローランドくんをよろしくね」

「任せとけ。坊主もしっかりやるんだぞ。アルフレッドからは、かなり難しい魔道具を作ってるって聞いてるぜ」

「やっぱりそうなんだ」


 一番簡単なマジックバッグを作るだけでも大変だったからね。そのパワーアップ版ともなれば、難しくて当然だろう。時間停止のマジックバッグを作れるようになるのはいつになることやら。


 そうして同じ部屋で別れて魔道具を作ることになった。ミューはボクとローランドくんの間を行き来して監視しているようだった。ついでにボクからブドウをもらって、満足そうに食べていた。

 もしかして、それが目的だったりするのかな? そしてニャーゴさんから見せてもらった特製のインクはものすごく使いにくそうだった。ならボクは、魔力で書く方を選ぶぜ。




 そうしてローランドくんと一緒に魔道具を作ったり、アルフレッド先生から一緒に剣術を学んだり、住宅建設予定地の木の伐採を手伝ったり、学校の建設様子を見に行ったりしていると、学校が完成する日がやって来た。


 思っていたよりも、ずっと早く完成したな。日に日に出来上がっていく学校を見て、ローランドくんがあ然としていたからね。一日で進む速度が速すぎるってね。ボクもそう思います。


「もう学校が完成するだなんて思わなかったよ。住宅地も出来上がっているし。ドワーフさんとエルフさんたちにはビックリだよ。そこにケットシーさんたちが加わっていたから、こんなに早かったのかな?」

「錬金術の道具がずいぶんと役に立っているみたいですね。ものすごく短時間で作れるようになっているみたいです」

「これはもしかして、先生を準備するのが間に合っていなかったりするかもしれませんね」


 しまったな。まさかこんなに早く完成するとは思わなかったので、そっち方面がおろそかになっていた。面接くらいはした方がよかったかもしれない。

 だが、その心配はいらなかったようである。


「それにつきましては心配ありませんよ。私とヨハンさんとで、しっかりと選んでおきましたから。それに、まだどれだけ人が集まるのか分かりませんからね。先生の数は最低限で問題ないでしょう」

「そうなんだ! さすがはフェロールだね。ヨハンさんにもあとでお礼を言っておかないといけないね。それに、確かに最初は少ない人数で運営することになるのか。それなら大丈夫かもしれない」

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