第237話 大浴場を自慢する

 値段に関してはやっぱり安いみたいだな。ローランドくんがすぐに分かるくらいには安いようである。

 そろそろ町の人たちの手にも、魔道具や魔法薬が行き渡っているころだろうから、値段の改正を行ってもいいかもしれない。

 だけど今のところ、魔道具や魔法薬を買い占めにくる商人はいないんだよね。


 そこでふと気がついた。そういえば、アリサさんたち妖精族が、悪い人がノースウエストへ来ないようにしているんだったな。そうなると、買い占めようとたくらんでいる商人さんたちは、ノースウエストへくることができないのでは?


「うーん、それならこのままの値段でもいいのかな?」

「どうしたんだ、リディル様?」

「ミュ?」


 ローランドくんとミューに、ボクのつぶやきが聞こえてしまっていたようだ。ちょっと恥ずかしいな。そのことにはにかみながらも、思っていることを口に出した。


「なんでもないよ。価格はしばらくこのままになるかな? 商人さんたちにも、もうかってもらいたいからね。そしてその分、ここで売られていない商品を、ノースウエストに売りに来て欲しいと思っているよ」

「なるほどな。そういう考え方もあるのか。領都はすでに色んな店が立ち並んでいるからな。今さら色々と手をつけるのは難しいかもしれない」


 ふむふむ、とうなずくローランドくん。ローランドくんは次の伯爵だからね。今のうちから色々と学んでおこうと思っているようだ。きっとローランドくんはいい領主になるよ。

 一通りお店を見て回ったところで、次は大浴場へ行くことにした。


 ボクがノースウエストに来てから、初めて作った、みんなで使う大きな建物だ。それだけに、思い入れがずいぶんとあるぞ。ローランドくんに自慢したいところだね。

 大浴場は昼間だというのに、いつものように、大変にぎわっている様子だ。


「あれがノースウエストにある唯一の大浴場だよ」

「大浴場まであるんだな。それにしても、ずいぶんと人が多くないか?」

「町の人なら無料で使うことができるからね。それに子供たちには、無料でお風呂あがりのジュースが飲めるようになっているんだよ」

「そうなのか!?」

「ミュ!」


 ジュースという単語を聞いて、ミューが大浴場へ猛ダッシュした。どうやらジュースを飲めると思ったようである。もちろんここまで来たからには飲むけどさ。そこまで必死になることもないと思うんだけど。


「ローランドくん、ボクたちも行こう」

「ああ、そうだな。中がどんな風になっているのか、楽しみだ」


 ローランドくんを連れて大浴場の中へと入った。そこでは大人も子供も、みんなが笑顔で、何やら楽しそうに話している。

 休憩場所ではジュースを飲んでいる子供たちの姿がある。そして大人たちは、お金を払って、風呂あがりのいっぱいを飲んでいるようだ。

 どうやら昼間からお酒を飲む習慣は、ノースウエストで広まりつつあるようだな。これもドワーフさんたちの影響か。


「ずいぶんと人が多いけど、無料で開放しているからなんだろうな。まさか大浴場を無料開放しているとは思わなかった」

「もちろんボクたちも無料でお風呂に入ることができるよ。お風呂にはもちろん、ジェットバスがついているんだ。みんなにも人気だよ」

「ジェットバスまでついているのか。本当にすごいな」


 感心した様子のローランドくん。昨日の夜のお風呂を楽しんでいたからね。ジェットバスも気に入ったようである。そのうち、カリサ伯爵家のお風呂にもジェットバスを取りつけてくれないかとお願いされそうな気がする。そのときまでには、領都までの道をしっかりと整備しておきたいところだね。


 大浴場を管理してくれている人にお願いして、ボクたちもジュースをもらった。もちろんミューもである。デニス親方はビールを購入していた。大浴場にはもちろんボクたちが作った冷蔵庫が設置してある。そのため、いつでもキンキンに冷えた飲み物を飲むことができるぞ。


「冷たくておいしいな。まさかここにも魔道具が置いてあるとは」

「自分たちで作った魔道具だからね。材料費以外はお金がかからないんだよ」

「ノースウエストはすごいな。他の領地からすると、信じられないと思うぞ」


 どうやらノースウエストは着実にすごい町へと進化しているみたいだな。領民も増えてきたし、もう少し町を拡張してもいいのかもしれない。もちろん増えているのは、人族以外の種族だけどね。


「ローランドくん、もっとすごい町にするために、足りないものはなんだと思う?」

「そうだな、商店もあるし、宿もある。辺境にあるから、人が行きにくいはずだけど、ここまでの道は整備されているからな」


 ううむ、と考え込むローランドくん。どうやら必要なものはある程度、すでにそろっているみたいだな。そうなると、やっぱり辺境にあるのが問題なのかもしれない。


「ああ、そうだ、学校がないな。学校があった方が、もっと人が集まってくるんじゃないのかな?」

「なるほど、学校か」





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9月14日に

『世界樹の守り人』の1巻が発売になります!

ぜひ、手に取っていただければと思います。

色々と手を加えており、書き下ろしも追加しております。

どの挿絵もかわいらしく、そしてかっこよく描いていただいて

おりますので、そちらも楽しみにしていただければと思います!

よろしくお願いします!


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