第235話 フェロールから話を聞く

 目を覚ますと、いつものようにミューがボクにしがみついて寝ていた。暑くないのかな、と思うのだが、不思議と全然暑くないんだよね。むしろ逆に、一人で寝ていたときよりも、寝心地がいいような気がする。

 ミューが何かしているのだろうか? もしかして、ミューの癒やしの波動が影響している!?


「ミュ?」

「おはよう、ミュー」

「ミュ」


 そんなわけないか。確かにミューからは癒やしの波動が出ているだろうが、周辺の空気をいい感じの温度にすることなんて、できないだろう。

 服を着替えて、ダイニングルームへと向かった。そこではいつものように、フェロールが朝食の準備をしていた。これは話を聞くチャンスだぞ。


「おはよう、フェロール」

「おや、お早いですな。おはようございます、リディル様」

「ミュ」

「ミュー殿もおはようございます」


 笑顔で朝のあいさつをするフェロール。疲れた様子はないみたいだ。顔色もいつも通りだね。夜に起きて、何かをやっているわけではなさそうだ。もしそんなことをしていたら、全力で止めないとね。今でさえ、ちょっと働き過ぎなところがあるからさ。


「フェロール、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「なんでしょうか?」

「カリサ伯爵領があれからどうなったか、話を聞いてないかな?」

「それでしたら、カリサ伯爵は引き続き、調査を行っているみたいですぞ」


 こちらに知らせがないということは、ボクたちが知らないところで動くつもりのようだね。何もしなくてもいいのかな? まあ、カリサ伯爵には知り合いの貴族もたくさんいるだろうし、大丈夫なのかもしれない。むしろ、王族という肩書きしか持っていないボクが協力するよりもいいかも。


「まだ何もつかんでないのかな?」

「どうでしょうか? 我々を巻き込みたくはないと思ってはいるようです。カリサ伯爵令息をこちらへ向かわせたのも、そのためかと」

「つまり、ローランドくんを巻き込みたくなかったってことだね」

「はい」


 どうやらローランドくんはお礼を言いに来たのと同時に、ノースウエストへ避難しにきたようである。それだけカリサ伯爵は今回のことを重く見ているということか。ボクたちも用心した方がいいんだろうな。


 ノースウエストは世界樹さんの加護があるので、呪いに対しては強いみたいだからね。またローランドくんが同じような目に遭わないようにしたのだろう。

 これでもし、カリサ伯爵家に何かあったとしても、その跡継ぎであるローランドくんは残っているからね。家がなくなるという、最悪の事態だけは免れることができるというわけだ。

 そんなこと、考えたくもないけどね。きっと大丈夫だと信じたい。


「ボクたちにできることは何かないの?」

「カリサ伯爵令息を預かることでしょうな。無事にこちらで保護することこそが、今、一番の支援だと思いますぞ」

「なるほど、確かにそうかもしれない」


 ローランドくんの安全が保証されているからこそ、カリサ伯爵も思い切って動けるのかもしれないからね。それに守る人数が少なくてすむのなら、それだけ安心できるのは確かだろう。


「ローランドくんはそのことを知っているのかな?」

「どうでしょうか。薄々は感じているのではないかと思いますけど」

「そうだよね。この話はローランドくんには内緒にしておいた方がよさそうだね」

「その方がいいでしょう。いつまでここにいるのかは分かりませんが」


 カリサ伯爵領で起こった問題が解決するまで、ローランドくんはここにいるのかもしれないな。それならローランドくんが少しでも快適に過ごすことができるようにするのが、ノースウエストの領主としての仕事だよね。

 大丈夫。ボクにはみんながついているからさ。


「フェロール、ボクも朝食の準備を手伝うよ」

「ミュ!」

「それでは、テーブルの上を拭いてもらうことにいたしましょう」


 やっぱり刃物は触らせてくれないようである。これでもアルフレッド先生と一緒に、剣術の訓練をしているんだけどな。フェロールからすると、まだまだ子供として扱う存在だと思われているみたいだね。


 そうしてミューと一緒に朝食の準備をしていると、ローランドくんがやってきた。ボクとミューが手伝っている光景を見て、ちょっと驚いていた。

 それもそうだよね。ローランドくんはそんなことをしたことなんて、ないだろうからね。


「おはよう、ローランドくん」

「おはよう、リディル様。いつも、やってるの?」

「そうだよ。ここでは自分のできることは、なんでも自分でやるようにしているんだ。できることがたくさんある方が、楽しいからね」

「できることがたくさん……俺も手伝うよ!」

「それじゃ、ローランドくんはこれを運んでほしい」


 ローランドくんの目が輝いたような気がした。だれでも必要とされる人物になりたいよね。ボクだってそうだもん。いてもいなくても変わらない、ではちょっと寂しいからね。

 そうして朝食の準備が整ってきたところで、アルフレッド先生たちがやって来た。




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9月14日に

『世界樹の守り人』の1巻が発売になります!

ぜひ、手に取っていただければと思います。

色々と手を加えており、書き下ろしも追加しております。

どの挿絵もかわいらしく、そしてかっこよく描いていただいて

おりますので、そちらも楽しみにしていただければと思います!

よろしくお願いします!


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