第234話 夜の密会

 ****


「なるほど、そういうことでしたか」

「はい。カリサ伯爵は単独で事に当たるようです」

「大丈夫なのか?」

「そこはカリサ伯爵を信頼するしかありませんな。もちろん、わたくしの仲間たちは協力することになっています」


 リディルが眠りについたころ、ダイニングルームにはリディルを守る者たちの姿があった。フェロールはカリサ伯爵の騎士たちから、余すことなく、情報を入手していた。最初は話をぼかしていた騎士たちだったが、フェロールの巧みな誘導尋問によって、ほとんどの情報を話してしまっていた。


「それにしても、リディルくんの作った上級解毒剤がそんなことになっていたとは」

「相手は腰が砕けただろうな。何せ、呪いを専門に扱っているやつらが全滅したんだろう?」

「どうやらそのようですな。裏社会では大騒ぎになっているので、すぐに分かりましたよ」


 ローランドに仕掛けられた呪いはとても強力だった。それゆえに、それが跳ね返された段階で、呪いを仕掛けた者たちは次々と倒れることになった。そして、二度と起き上がることはなかった。


 何が起きたのかを正確に知る者はここにしかいない。今も闇社会ではだれの仕業なのかと騒ぎになり、次は自分たちではないかと、戦々恐々としていた。もちろんフェロールは自分たちだけが持つ情報を漏らすつもりはない。国王陛下へも報告をしていなかった。


 つまり、今のフェロールは国王陛下よりも、リディルを優先したということになる。そのことについて、フェロールは後悔することはなかった。それどころか、当然と思うようになっている。それだけリディルに傾倒しているということだった。


「仕掛けてきたのがだれなのか、分かってるのか?」

「はい。どうやら前回、こちらへ暗殺者を送り込んだ、公爵家みたいですね」

「あきらめてなかったのか。潰さないのか?」

「なかなかそう簡単にはいかないものでして……今しばらく、時間がかかると思います」


 リディルの命を狙った公爵家はなかなか尻尾を出さなかった。しかし、徐々にではあるが、その動きは制限されつつある。それは監視の目が強くなっているからに他ならない。今では国王陛下だけでなく、第一王子派も協力している状態だ。


「それでからめ手として、隣の領地である、カリサ伯爵領を狙ったわけですね」

「乗っ取るつもりだったのか、利用するつもりだったか。どちらなのかは分かりませんが、もしそうなっていたら、ノースウエストは徐々に衰退することになっていたでしょうね」

「ジワジワと締めつけるつもりだったのでしょうが、それならそれで、よかったと思いますけどね。この国から独立する、ちょうどよい機会になったはずですよ」


 アルフレッドの言葉にギョッとするフェロール。さすがにフェロールも、まだそこまでは考えていなかった。

 だがしかし、アルフレッドはすでにそこまで考えていることを知った。いや、アルフレッドだけじゃない。デニスも、ニャーゴも、アリサも同じ考えてあることを知った。アルフレッドの発言に合わせて、大きくうなずいていたからである。


「そうですな。そうかもしれませんな。ここにはこれだけの種族が集まっているのです。これからも、さらに増えることになるのでしょう?」

「おそらくは。何も言ってはきませんが、世界樹は散り散りになっている種族たちに呼びかけているはずですよ」

「ならば、そちらの方向で進めた方がいいでしょうな。都合のいいことに、この土地は他から攻撃されにくい場所に位置しておりますからね」


 うなずくフェロール。フェロールもその覚悟を決めつつあった。あとはリディルの考え方次第なのだが、どちらに進んでも、リディルについて行くことを決めていた。それはここにいる全員、いや、ノースウエストで暮らしている全員が思っていた。


「世界樹が選んだ土地ですからね。もしかすると、他にも秘密があるのかもしれません」

「他にも秘密か。地下資源が豊富に眠っているとかか? そういえば、魔石が大量に取れる場所があるな」

「錬金術に必要な素材も手に入りますからね。しかも、どれも貴重な素材ばかりです」

「この辺りはすごくいい魔力が満ちているわ。だから監視するのも簡単ね。もちろん、罠にかけるのも。うふ」


 楽しそうにアリサが笑う。もしかすると、これから怪しい人たちがノースウエストにやってくるかもしれない。そうなれば、色々と面白いことになりそうだ。そんなアリサの顔を見て、この中で一番危険なのは、妖精族のアリサなのかもしれないとフェロールは思った。もちろん、口に出すようなことはしなかったが。


「あとはリディル様次第ですな。リディル様は前世の知識があるとはいえ、まだ幼い。急激な変化は避けた方がいいかと思いますが」

「フェロールさんの言う通りですね。それならば、私たちでじっくりと下準備をすることにしましょう」

「それはいいな。やりたいことはまだまだたくさんあるからな」

「そうですね。焦らずいきましょう」

「うふふ、その日がくるのが楽しみだわ」


 ****



****


9月14日に

『世界樹の守り人』の1巻が発売になります!

ぜひ、手に取っていただければと思います。

色々と手を加えており、書き下ろしも追加しております。

どの挿絵もかわいらしく、そしてかっこよく描いていただいて

おりますので、そちらも楽しみにしていただければと思います!

よろしくお願いします!


****



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る