第232話 伝統料理を食べる

 夕食を作っているとアリサさんがやってきた。人族の姿である。どうやら夕食を作るのを手伝ってくれるみたいだね。


「リディルちゃん、私も手伝うわよ。妖精族の伝統料理を作ってあげるわ」

「ありがとうございます! 妖精族の伝統料理ですか。どんなのか気になりますね」


 そう言ったのだが、なんだかアルフレッド先生たちの様子がおかしい。ものすごく困ったような顔をしているぞ。一体、どういうことなの。


「アルフレッド先生?」

「リディルくんは妖精族の伝統料理を知らないのですよね。それなら一度、体験した方がいいかもしれませんね」

「体験って、どういうことですか?」


 おそるおそるアリサさんの方を見た。そこではご機嫌な様子でアリサさんが何かをこねている。どうやら中に具を入れるための、皮の部分を作っているみたいだな。見た目は肉まんのようである。小さめの肉まんだね。


「うふふ、この料理はね、中に色んな味がする具材を詰め込むのよ。珍しいでしょ?」

「そうかもしれませんね」

「まあ、その中に詰め込む具材に問題があるんだけどな」


 デニス親方がすごく微妙な顔をしていた。なんとなく分かってきたぞ。つまり、その具材に問題があるってことなんだね。おそらく、甘かったり、からかったり、酸っぱかったりするのだろう。食べてみるまで、どんな味がするのか分からないというわけだ。


「アリサさん、ローランドくんは病み上がりだから、お手柔らかにお願いね?」

「そう? それならちょっとにしておこうかしら」


 止めておいてよかった。どうやら激辛の肉まんが出てくる可能性があったようだ。あとは激甘の肉まんとか。それはもう肉まんじゃなくて、あんまんだよね?

 そんなアリサさんの料理が気になりながらも昼食の準備が整った。今日の昼食は色んな種族の郷土料理を集めた、スペシャルな昼食である。


「妖精族の伝統料理は、お酒が回った状態だといいんだけどな」

「確かにそれなら盛り上がりそうではあるけど、それって罰ゲームだよね?」

「まあそうなるな」

「何を言っているのよ。食べた人がどんな反応をするのかが面白いんじゃない!」


 どうやら妖精族は根っからのイタズラ好きなようである。妖精族同士の間でも、平気でイタズラをするようだ。だからこそ、妖精族はイタズラをすることを悪いとは思っていないのだろう。みんなを楽しませているつもりなのかもしれない。

 間違ってはいないけど、時と場所はしっかりと選んでいただきたいところである。


「わあ、すごい料理だね。どれもあまり見たことがないな」

「エルフ族、ドワーフ族、ケットシー族、妖精族の伝統料理を作ってもらったんだよ。どれもおいしいと思うんだけど、妖精族の料理だけはちょっと気をつけて食べてね」

「え?」


 笑顔で固まるローランドくん。その反応は正しいと思う。でも、毒は入っていないから、そこは安心してほしい。入ってないよね? 解毒剤を飲めば大丈夫とか思ってないよね?

 そうして始まった夕食の時間は確かに盛り上がった。


 ミューとニャーゴさんは鼻が利くからなのか、妖精族の伝統料理の中に混じっている、ちょっと特殊な味がするおまんじゅうを回避していた。

 そしてボクは激辛のおまんじゅうに当たってしまった。ローランドくんは甘い物だったみたいで、「え?」みたいな顔になっていた。


「一番の当たりを引いたのはリディルくんだったみたいですね。これからしばらくは運がよくなりますよ」

「そうなんですか?」

「そういえば、そんな話もあったな。俺は酸っぱいやつが当たったぞ。顔がこんなになった」


 そう言って、デニス親方がそのときの顔を再現してくれた。おお、これは酸っぱそうだ。そしてその顔を見てみんなで笑う。とっても楽しい夕食だね。

 なるほど、だから妖精さんたちはイタズラをするのか。確かに楽しい時間になるね。相手にもよるかもしれないけど。


 そうして夕食を楽しんだあとはお風呂である。ローランドくんは気になっていたみたいだから、きっとお風呂を楽しんでもらえると思う。サウナはまた今度だね。

 まずは体を洗ってから、ジェットバスへと向かった。


「この壁にあいた穴から泡が出るんだよな?」

「そうだよ。かなり勢いがあるから、そのつもりでいてね」

「分かったよ」

「それじゃ、このボタンを押してみて」

「おう」


 ローランドくんがボタンを押すと、浴槽の壁の穴から勢いよくお湯が噴き出した。空気を含んだお湯が、細かい泡を作りながら、ボクたちの体に押し寄せた。


「なんだこれ、気持ちいいな!」

「ミュ!」

「このお湯と泡の刺激が体をほぐしてくれるんだよ」

「なるほど、確かに……!」


 どうやらローランドくんはジェットバスを気に入ってくれたみたいだね。しっかりと肩までつかってから、それを楽しんでいるようだった。ミューも楽しそうに湯船につかまって、体を伸ばしていた。


 サウナはアルフレッド先生たちが使っている。今まさに熱々になったところだったようで、水風呂へと直行していた。

 なんだかんだでニャーゴさんも気に入っているみたいだね。あの毛並みなので心配だったけど、問題はなかったようである。



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9月14日に

『世界樹の守り人』の1巻が発売になります!

ぜひ、手に取っていただければと思います。

色々と手を加えており、書き下ろしも追加しております。

どの挿絵もかわいらしく、そしてかっこよく描いていただいて

おりますので、そちらも楽しみにしていただければと思います!

よろしくお願いします!


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