第228話 ボクが作った物

 ボクと魔道具を交互に見ているケットシーさんたち。すでに人族の姿をしているケットシーさんたちは、なんだかうらやましそうな目でそれを見ているな。


「もしかして、この魔道具はリディル様が作って下さったのですか?」

「ええ、そうですけど……?」


 なんだろう、この感じ。なんだか妙な空気になりつつあるんだけど。確かにちょっと作るのには苦労したけど、マジックバッグほどではなかったぞ。こんなときにアルフレッド先生がいたら、どうしてみんなが困惑しているのか聞くことができたのに。


「まさか世界樹の守り人様がお作りになった物をいただけるとは」

「家宝にします」

「ありがたや、ありがたや」


 ついには拝み始めたケットシーさんたち。どうやらボクの手作りの魔道具ということで、その価値が高まってしまったようである。うらやましそうにしているのは、自分たちはもらえなかったからなのだろう。どうしてこんなことに。


 こんなことになるのなら、すでに魔道具を持っているケットシーたちにも何かボクが作った物をプレゼントしないといけないような気がする。こんな小さなことで、ケットシーさんたちの間に亀裂が入るのは困る。


 何を作ろうかな。ケットシーさんたちに渡した、姿を変える魔道具は指輪型なので、指輪をプレゼントするのがいいかもしれないな。それならみんなに同じような物を渡すことになるからね。


 屋敷に戻ったらデニス親方とルミ姉さんと相談だな。指輪の作り方を教えてもらわなければならない。金属加工と言えば、やっぱりドワーフだろう。

 そうしてケットシーさんたちが全員、人族の姿になったところで屋敷へと案内した。


「今日からここに住んでもらいたいと思います。もちろん、ノースウエストに自分たちが住む家を建ててもらっても構いませんよ。ドワーフさんとエルフさんたちが手伝ってくれると思います」

「分かりました。リディル様にご迷惑をおかけしないように、できることは自分たちでやろうと思っています」

「そうしてもらえると助かります」


 やっぱり自立は必要だよね。いつまでもだれかに気をつかって暮らしていくのでは、息が詰まることになるからね。

 そうして屋敷の中を案内して、ケットシーさんたちの部屋が決まったところで、デニス親方に相談することにした。ちょうどいいタイミングで戻ってきていたのだ。


「デニス親方、ボクに指輪の作り方を教えてほしいんだけど」

「指輪? 魔道具じゃなくて、ただの指輪か?」

「そうだよ。ケットシーさんたちにあげようかと思って」


 首をかしげているデニス親方に、先ほどのことを話した。そしてすぐに納得してもらうことができた。


「なるほど、坊主が作った物が欲しいのか。その気持ちはなんとなく分かる気がするな」

「デニス親方もそうなの?」

「まあ、そうだな。だが俺は坊主からたくさんの新しい道具の作り方を教えてもらっているからな。別に特別な物が欲しいとは思っていないぞ」


 そう言ってガッハッハと笑うデニス親方。どうやら気をつかわれてしまったようである。ミューも何か欲しいと思っていたりするのかな? いつも近くにいるから、特別なことをしようだなんて思わなかった。


「ミューは何か欲しいものはないの?」

「ミュ? ミュー!」


 ミューが手で小さなまるを作った。あれはエルフのブドウが欲しいというサインだな。どうやらボクの手作りの品よりも、ブドウの方がいいらしい。さすがはミューだね。なんだか気が楽になった気がする。


 そんなミューにブドウを食べさせながら、デニス親方に指輪の作り方を教えてもらう。姿を変える魔道具を作ったときに使った指輪でもよかったんだけど、それだと取り間違えてしまう可能性もあるからね。もっと分かりやすい装飾品にした方がいいだろう。


 そうして指輪を作っていると、アルフレッド先生が戻ってきた。ボクから話を聞いて、ちょっとあきれた様子になっていた。ケットシーたちの考えは分かるけど。そんな感じである。


「きっとケットシーたちは早くここになじみたかったのですよ。リディルくんからそういった物をもらうということは、ノースウエストの住人として認められた印だと思ったのかもしれません」

「確かにそういう考え方もあるかもしれませんね。それじゃ、これからくるケットシーさんたちのためにも、多めに作っておいた方がよさそうですね」

「それがいいでしょうね。今回だけ特別、というわけにはいかないでしょう」


 その通りだね。みんなにも手伝ってもらいたいような気もするけど、こればかりは自分の手で作らないといけないだろうな。ボクが作った物だと分かるように、サインでも入れておこうかな? そのうちプレミアがついたりしてね。




 その日の夜は、新しく加わったケットシーさんたちの歓迎会になった。まさか妖精さんたちがいるとは思わなかったようで、すごく驚いていた。でも、妖精さんたちがノースウエストの防衛を任されていると聞いて、どこか納得した様子だった。


「妖精族が防衛をしてくれているのなら安心ですね。妖精族は悪意には特に敏感ですからね。私たちも安心して暮らすことができそうです」

「何かお礼がいるかもしれませんね」

「確かにそうですな」


 人族の姿じゃなくて、元の姿に戻っているケットシーさんたちが何やら話し合っている。そこだけモフモフ度がすごく高いぞ。ボクもそこに混じりたい。

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