第226話 屋敷を改造する

 ケットシー族の到着に合わせて、なるべく錬金術工房を増やしておかないといけないからね。住む場所なら、まだ屋敷に余裕があるのでなんとかなると思う。そろそろ満室になりそうだけど。デニス親方たちにお願いして、さらに屋敷を拡張してもらうべきだろうな。要塞からお城になりそうな気がするけど、それはもうしょうがないと思うしかないのかもしれない。


『そうですね、あと一週間ほどで最初の集団が到着すると思います』

「最初の集団? ということは、他にも集団があるってことですか?」

『ええ、そうです。どうやら四つほどの集団がバラバラにこちらへと向かっているみたいです』


 ふむ、世界樹さんの言い方からすると、どうやら世界樹さんがノースウエストへ呼んだわけではないみたいだな。それならきっと、ニャーゴさんがケットシー族に手紙でも送ったのだろう。


 それとも、錬金術の道具の中に、遠くの人と話ができる物があるのかもしれない。いずれにせよ、ニャーゴさんが絡んでいる可能性が高そうだ。あとで聞いてみることにしよう。

 もしかすると、ニャーゴさんはノースウエストがどんな場所なのかを知るために、先陣を切ってここへ来たのかもしれないね。


 世界樹さんにあいさつをしたあとは予定通りに畑へと向かった。そこでいつものように畑の作物を収穫して、町のみんなにもあいさつをしながら午前中を過ごした。

 いつもとはメンバーが違うことに首をかしげていたので、昨日の夜は宴会だったことを話した。


「そうでしたか。ちょっとうらやましいですね」

「さすがに領主様のお屋敷に入り浸ることはできませんからね」

「うーん、そんなことはないとは思いますけど、でもみんなを収容できるほどの広い部屋がまだないのも確かですね」


 これはしまったな。ちゃんと人族も含めて、みんなで宴会をしないといけないぞ。そうでないと、そこからお互いの間に亀裂が入ってしまうかもしれない。屋敷に戻ったら、早急に壁を壊して、広い部屋を準備してもらわないといけないな。


 畑に来てよかった。そこでみんなからの話を聞けたおかげで、すぐに手を打つことができそうだぞ。

 午前中の仕事を終えて屋敷へ戻ると、さすがにみんな活動を開始していた。散らかっていた宴会場は、今はすっかりきれいになっている。


「ん? 何このドンドンという音は?」

「ミュ?」

「はて? 何かを壊しているかのような音ですな」


 首をかしげるミューとフェロール、そしてボク。音がする方へ行ってみると、そこではすでにドワーフたちが部屋の壁を壊して、部屋を広くしていた。

 ずいぶんと判断が速いな。そしてためらいがない。そこにあったはずのきれいな壁も、容赦なく壊しているようである。


「デニス親方、ずいぶんと思い切ったね」

「おう、坊主、戻ってきたのか。前に言っていた通りだ。大体の話はみんなにもしていたから、すぐに行動に移せたぜ」

「そうだったんだね。今度は人族も含めて、みんなで宴会をしたいと思っているよ」

「それはいいな! それじゃ、酒もまだまだ準備しておかないとな」


 そうだった。お酒の準備が必要なんだった。ノースウエストでは一番人気の商品だからね。ケットシー族がくる前に、しっかりと蓄えておこう。

 ああ、でも、何回かに分けてケットシー族がくるんだったな。もしかして、その度に歓迎会をすることになるのか?


「ミュ?」

「ミュー、しばらくは宴会が続きそうだよ」

「ミュ」

「それは大変ですな。しっかりと作物を育てて、準備しておかなければなりません」

「そうだよね、そうなるよね」


 これはアルフレッド先生にも相談する必要があるな。あとニャーゴさんにも。何かいい肥料が必要になるかもしれない。世界樹さん用に作っている肥料を、そちらに回すわけにはいかないからね。最初に作ったあの肥料を、どうやら世界樹さんがずいぶんと気に入ってくれているみたいなんだよね。ボクの味がするらしい。何それ怖い。


「アルフレッド先生、ニャーゴさん!」

「おや、リディルくん、どうしましたか?」

「リディル様、何かありましたか?」


 どうやら二人は部屋の片づけをしていたみたいだな。ようやく片づいたのだろう。これからちょっと休憩しようとしていたのかもしれない。ちょうどいいので、ケットシー族がくる話と、お酒の準備についての話をしておこう。


「なるほど、そういうことでしたか。ニャーゴさん、何か心当たりはありますか?」

「確かに同胞に手紙を書いたことはありますね。ようやく自分の住むべきところが見つかったと。心配しているかもしれませんでしたからね」

「そうだったのですね。世界樹さんから呼ばれたことについては、だれにも話さなかったのですか?」

「はい。人族のいるところへ行くと言えば、止められると思いましたので」


 うーん、これはちょっと大変なことになりそうな予感がする。どうやらケットシー族は、人族への警戒心が他の種族よりも強いみたいである。それだけ人族によって、苦い経験をさせられたということなのだろう。

 もしかすると、見世物小屋とかに売られたのかもしれない。

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