第222話 妖精さんたちを案内する

 妖精さんたちへのあいさつが終わったところで、それぞれに別れてノースウエストを紹介することになった。

 ボクはアルフレッド先生とフェロール、ミューと一緒である。そしてボクたちの周りには、大人の姿になった妖精さんたちの姿が。みんなすごい美人なんだよね。これで町の中を歩いたら、絶対に注目されると思う。しょうがないことだけどね。


 そのうちノースウエストの人たちも妖精さんたちがいることに慣れて、いつもの小さい姿で町の中を動けるようになると思う。それまでの辛抱だ。

 そうして町の中を案内していると、妖精さんたちはエルフのブドウが実った畑が気になったようである。


 今日のブドウの収穫はすでに終わっているので、屋敷に戻ったら、みんなで食べようということになった。もちろん、ブドウジュースも飲んでもらうつもりだ。ワインは夜でいいかな?


「すごいわ。さすがは世界樹の守り人ね」

「こんなに立派なブドウ畑、見たことないわ」

「前にエルフのブドウをつまみ食いしたときには見つかって怒られちゃったけど、ここなら大丈夫なのかしら?」


 ザワザワする妖精さんたち。別の場所ではあるが、やはりつまみ食いをしたことがあったようである。

 これは多少のブドウのつまみ食いは黙認した方がいいかもしれないな。さすがに食べ尽くされることはないだろう。それどころか、日ごろのブドウの実りを見て、驚くんじゃないかな? 明日になれば、たくさん実っているだろうからね。


「この辺りが、現在のノースウエストの境界線になります」

「なるほどね。とりあえずはこの内側に悪い人たちが入ってこないようにすればいいのかしら?」

「できればそうしていただけたらと思います。悪い人たちを排除するときには、ボクたちにも知らせて下さい」

「分かったわ。生け捕りにしておくわね」


 親指を上げてウインクをする妖精さん。危なかった。どうやら何も言わなかったら、ひそかに抹消されていたようである。なかなか恐ろしいな、妖精族。

 おそらくだけど、そうすることで世界樹さんを守るつもりだったのだろうな。妖精さんたちにとって、世界樹さんはとても大事な存在みたいだからね。


 そうしてノースウエストの境界線をグルリと回ってから屋敷へと戻った。残りの時間はゆっくりとしてもらおう。

 今日は妖精さんたちの歓迎会をすることになるので、準備に時間がかかるはずだ。


 ドワーフさんとエルさんも妖精族の歓迎会に呼ばないといけないな。今日はみんなで仲良く、夜遅くまで騒ぐぞ。

 夕食の準備をしていると、デニス親方たちも戻ってきた。ちょっと疲れた様子をしていることから、どうやら妖精さんたちに振り回されたみたいだね。


「坊主たちの方はなんともなかったか?」

「特に何もなかったよ。エルフのブドウを食べたいみたいな話は出たけど」

「そうか。それじゃ、追加で準備しておくことにしよう」


 どうやらデニス親方たちの方ではエルフのブドウを食べさせることになったみたいだね。追加で、というのはそういうことなのだろう。ボクも忘れずに、ジュースの準備をしておかないといけない。


 色々と準備をしていると、仕事に行っていたドワーフさんとエルフさんたちが戻ってきた。そしてボクたちが夕食の準備をしているところを見て、みんな手伝ってくれた。

 そのうち妖精さんたちもやって来て、みんなでワイワイと準備をする。


「こりゃ食堂も広くしないといけねぇな」

「そうかもしれないね。別で部屋を用意してもいいかもしれない」

「そうだな、そうしよう。なあに、壁をぶち抜いてつなげるだけだ。すぐに終わるさ」


 どうやらデニス親方はダンスができるくらいの、広い宴会場を作るつもりみたいだね。それもいいかもしれない。たまにはそこにノースウエストの人たちを呼んで、みんなで騒ぐのも悪くないな。


 夕食の準備ができたところで、さっそくみんなで食べることになった。それと平行して、お風呂にも順番に入ってもらうことにしよう。大人数になっているからね。お風呂場は男女に分けて、拡張しているものの、さすがにみんな一緒には入れない。


「坊主、みんなに酒が行き渡ったぜ。あいさつを頼む」

「え、ボクがあいさつするの?」

「そうに決まってるだろ。坊主がいるからこそ、みんなここに集まってきたんだからな」


 確かにそうかもしれない。呼んだのは世界樹さんだけど、世界樹さんはボクのためにみんなを呼び集めてくれたみたいだからね。

 デニス親方にそう言われて、ジュースを持って立ち上がった。もう少し背が高かったらよかったけど、立ってもあまり目立ちそうにないな。


 それでも、みんなの注目がボクに集まった。難しいあいさつは抜きにしよう。このあと、ケットシー族もくることになっているからね。そのときも、きっと同じことをするはずだ。


「新しく妖精さんたちが仲間に加わることになりました。妖精さんたちにはノースウエストの防衛を任せるつもりです。みんなケンカせずに、仲良くして下さいね。妖精さんたちも、よろしくお願いします。乾杯!」

「乾杯!」

「よろしく頼むぜ!」


 みんなから声があがる。妖精さんたちも自前の小さなカップを掲げていた。

 これでボクたちは妖精さんたちの仲間になったはず。これならボクたちがイタズラされる心配も、少しはなくなったかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る