第221話 妖精さんたちがやってくる

 お風呂の時間もなんとか終わり、あとは寝るだけになった。だがしかし、ここでまた問題が発生する。


「アリサさん、一人で寝るのが寂しいのなら、ルミ姉さんのところで一緒に寝たらどうですか?」

「私もそう思ったんだけど、断られちゃったわ。安眠できないって」

「安眠できない……アリサさんは何をするつもりだったんですか?」


 俺の質問に首をかしげるアリサさん。どうやら特に何もするつもりはなかったみたいだ。だがルミ姉さんからすると、「妖精のアリサさんと一緒に寝るなんてとんでもない」と思っているみたいだね。

 一体、ルミ姉さんと妖精族との間に何があったのか。とんでもないイタズラをされたのかもしれないな。


「まあまあ、いいじゃない。そういうことだから、私はリディルちゃんのところで寝るわ」

「ミュ」

「ほら、ミューちゃんも納得しているみたいだし、いいわよね?」

「分かりました。でも、ベッドはそれほど大きくないので、小さい姿のままで寝て下さいね」

「もちろん分かっているわよ」


 そうしてちゃんと確認したところで、アリサさんと一緒に眠ることになった。小さい姿のままなら問題ない。大人の姿だったら、色々と困ることになりそうだったけどね。

 その日から、アリサさんはボクの部屋で寝るようになった。どうやらボクの隣で寝ることが気に入ったようである。


「大丈夫ですかね、アルフレッド先生?」

「まあ、大丈夫だと思いますよ。今は、ですが」

「今は?」

「そうです。ですがこれからリディルくんに奥さんができた場合は、あまりよくないかもしれません」

「確かに」


 奥さんがそばにいるのに、アリサさんと一緒に寝るのはよくないだろう。ミューならギリギリセーフだと思うけど。なんとかそれまでに、アリサさんに「リディル離れ」をしてもらいたいところである。

 妖精さんたちがノースウエストへやって来たら、少しは状況が変わるかな?




 そうしていつもの様に、畑仕事をしたり、木工品や、錬金術の道具、魔道具なんかを作ったりしていると、妖精さんたちがノースウエストへやって来た。

 こちらの受け入れる準備は万端だ。妖精さんたちに使ってもらう部屋には、今では立派な屋内花壇ならぬビオトープが設置されている。


 ボクとアルフレッド先生、デニス親方、ルミ姉さん、ニャーゴさんによって、いい感じのビオトープが屋内に設置できたと思っている。これなら喜んでくれるはず。花もたくさん咲いているからね。それを見たアリサさんは喜んでいた。


「みんな、よく来てくれたわ。一緒にノースウエストを盛り上げましょう!」

「おー!」


 そう言って、拳をあげる妖精さんたち。どうやら妖精さんは女性ばかりみたいだね。男の妖精の姿はそこにはなかった。

 一体、どうやって妖精さんは増えているのだろうか? 気になるような、そうでもないような。もしかして、アメーバみたいに、分裂して増えるのかな? それならみんな同じような身長をしているのも納得だ。


「またたくさん来たな……」

「デニス親方、おとなしくしておいた方がいいような気がするよ。余計なことを言うと、顔を覚えられるかも」

「顔を……あり得るな」


 そう言ってから口を閉じたデニス親方。どうやら今はみんなとのあいさつが忙しいようで、気がつかれなかったようである。助かったね。

 そのまま部屋に案内すると、ものすごく喜んでくれていた。ベッドは大きな物を特別に用意している。これならみんなで一緒に寝ることができるだろう。


「アリサさん、ノースウエストの人たちが慣れるまでは、慎重に動いてほしい」

「もちろんそのつもりよ」


 すでにアリサさんはノースウエストの人たちに紹介している。妖精の登場に驚いていたけど、そのあと元の姿に戻った、ニャーゴさんも紹介したので、なぜか色々と納得してもらえた。

 そしてなぜか、「さすがは領主様」とあがめられた。ボクってみんなからどんな風に認識されているのかな?


「まずは大きな姿で町の雰囲気に慣れてほしいかな? 今では色んな物が売られているからさ。ある程度のお金は渡しておくよ」

「いいのかしら?」

「これからノースウエストの警備を担当してもらうことになるからね。それに対する賃金だと思ってほしい」


 あれ? ボクの話を聞いた妖精さんたちがお互いに顔を見合わせているぞ。何かよくないことを口走ってしまったかな。

 ドキドキしていると、妖精さんたちの顔がこちらへ向いた。それも、一斉にである。もしかして妖精さんたちって、思考や感覚がどこかでつながっていたりするのかな。


「世界樹の近くで暮らすことができるだけでも十分なのに、報酬までもらっていいのかしら?」

「その通りなのだわ。世界樹の近くで暮らすのは、私たちの夢なのだわ」

「そうだったんですね。それは知りませんでした。でも、それでもみなさんに報酬を渡したいと思います。これはこの地を治める、領主としての役割だと思います」


 納得してもらえたかどうかは分からないけど、受け取り拒否にはならなかったようである。それならばよし。ボクには隣町で売りに出している、お酒の収入があるからね。

 これから領都までの道を整備すれば、もっと需要が高まるはずだ。そうなれば、収入ももっと増えるはずだぞ。お金に困ることはないだろう。

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