第220話 お酒禁止令
どうやらアリサさんは興奮しているようで、そんなちょっといやらしい姿のままボクに抱きついて来た。
「あんな面白い魔道具は初めて見たわ。それも、お風呂で使う魔道具だなんて。よく考えたわね。さすがはリディルちゃんだわ!」
「え? あ、ありがとうございます?」
ジェットバスを気に入ったらしいアリサさんが、ボクの頭をしきりになでてきた。なんだかちょっと恥ずかしいな。
そのあとはもちろんサウナの話になった。やはり最初は地獄かと思ったみたいだけど、ルミ姉さんと一緒に、しっかりと整ったようである。
「あれならドワーフがお風呂に入るのも納得だわ。ところで、みんなは何を飲んでいるのかしら?」
「そりゃあもちろん、風呂あがりの一杯に決まっているだろう? アリサも飲むか? うまいぞ、風呂あがりのキンキンに冷えたビールは」
「キンキンに冷えたビール! いただくわ!」
「そう言うと思ったぜ」
そうして「仲間が増えた」とうれしそうな顔をしたデニス親方がアリサさんに冷えたビールを渡している。これでまた一人、風呂あがりにお酒を飲む習慣を身につけたようである。
いいのかなぁ。まあ、人族とは体の構造が違うみたいだし、今は様子を見ておくしかないか。でもちょっとでも具合が悪そうになったら、禁止にするけどね。
「何これすごい。体にビールが染み渡るわ……」
「アルフレッド先生、大丈夫ですかね、アリサさん?」
「どうでしょうか。お酒を飲ませるのであれば、せめて元の姿に戻ってからにしてもらった方がよかったかもしれませんね」
「確かに……あのサイズのお酒を飲んだらダメかもしれません」
その予感は当たったようで、ビールを一気飲みしたアリサさんがフラフラになっていた。やっぱり風呂あがりのお酒はダメだ!
「ちょっと、アリサさん!?」
「なんだ、アリサ。お酒に弱くなったんじゃないのか?」
「あれ? リディルちゃんがたくさんいる」
「これダメなヤツ!」
慌ててアルフレッド先生とアリサさんのところへ行くと、魔法が解けたらしい。元の小さな姿に戻った。もちろん、ぐでんぐでんのままである。
「これは……お風呂あがりのお酒は禁止ですね」
「そんな! それじゃ、風呂あがりのジュースも禁止だな」
「ミュ!? ミュ!」
「そうだよね、ジュースは関係ないよね。飲んでもアリサさんのように、倒れることはないからね」
「そんなぁ……」
「お兄ちゃん、なんてことをするッスかー!」
「うわ、落ち着けルミナ。わざとじゃねぇ。これは不幸な事故だ!」
取っ組み合いを始めたデニス親方とルミ姉さん。二人は放っておいて、アリサさんをなんとかしよう。
そんなわけで、アルフレッド先生に氷を出してもらって、アリサを冷やすことにした。これで少しはマシになるはず。水も飲ませたし、大丈夫だと思うけど。
「ニャーゴさん、酔い覚ましとかありますか?」
「もちろんありますよ。ひどい状態になりそうなら、使うことにしましょう。アリサさんの顔色はいいみたいですし、そこまでひどくないと思いますよ」
デニス親方とルミ姉さんのことは放っておいて、リビングへ移動する。ここならアリサさんを休ませることができるはずだ。
ニャーゴさんの言うように、顔色は問題ない。これなら大丈夫かな? でも、風呂あがりのお酒は制限した方がいいと思う。
「アルフレッド先生、お風呂あがりのお酒はやめた方がいいと思うんですが」
「そうですね、控えた方がよさそうですね」
どうやらアルフレッド先生は完全に禁止するのは反対みたいだな。それならば、お風呂あがりに飲んでいいお酒の量を決めておくことにしよう。
そんな話をアルフレッド先生とニャーゴさん、フェロールと一緒にしていると、アリサさんが目を覚ましたようだ。
ずいぶんと回復が早いな。これも妖精族が持つ体質の一つなのかもしれないな。
「あれ? 私……」
「アリサさんはお酒の飲み過ぎで倒れたのですよ」
「そんな! お酒で酔い潰れたことなんて、一度もないのに。リディルちゃんが開発したビールがおいしすぎるのがいけないのよ」
「そうなんですかね?」
たぶんだけど、サウナのあとのお酒がよくないのだと思うけど。だからと言って、サウナを禁止するのはもったいないような気がする。乱れた自律神経を整えるのにはちょうどいいからね。
「おう、アリサは目を覚ましたようだな。すまなかった。先に姿を元に戻してもらうべきだったな」
「気にしないでよ。私もちょっと調子に乗りすぎたところがあったわ」
「まあ、風呂あがりの酒は禁止になったから、もう同じようなことは起こらないと思うけどな」
「なんですって!」
そのあとはアリサさんに詰め寄られた。それはもう、ものすごい勢いで詰め寄られた。最終的には再び大人の女性になったアリサさんの圧力に負けて、「ちゃんと飲む量を管理するなら許可する」ということで決着した。ずるいぞ、アリサさん。
「リディルちゃんから許可をもらえてよかったわ」
「さすがはアリサさんッスね!」
「助かったぜ、アリサ」
どうやら今回のできごとがきっかけで、アリサさんとの絆は深まったようである。
もう、しょうがないな。これでよかったと思うことにしよう。
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