第218話 ノースウエストの新たな防衛機構

 世界樹さんからは、ボクたちがノースウエストにいない間に何か問題が起こらなかったかを尋ねた。もちろん、一緒に来ていたルミ姉さんにも話を聞く。どうせなら、一緒に聞いた方がいいからね。


『こちらは何も問題はありませんでしたよ。ああ、そういえば、ケットシー族もこちらへ向かっているみたいです』

「も、ということは、妖精族もこちらへ向かっているのですよね?」

『ええ、そうです。住める場所を追加で作っておいた方がいいかもしれません。リディルの家でも十分でしょうけど、それだと申し訳ないと思うかもしれませんからね』

「遠慮しなくてもいいんだけど……でも、ボクがその立場になって考えてみると、確かにそうですね。デニス親方、ルミ姉さん、お願いしてもいいですか?」


 こんなときは頼れるドワーフにお願いするのがいいだろう。他に手があいている住人がいたら、手伝ってもらうことにしよう。


「もちろんだぜ!」

「任せておくッス!」

「私も知り合いに声をかけておきますよ」

「ありがとうございます、アルフレッド先生」

「ありがとうございます。私の同胞のために」

「気にしないで下さいよ、ニャーゴさん。ケットシー族が増えれば、それだけ錬金術の道具が作れることになりますからね」


 そうなれば、病気やケガ、呪いにかかったとしても、すぐに対処することができるようになるはずだ。

 錬金術の道具を使えば、相手にケガを負わせることなく、無力化することも可能になるかもしれないぞ。夢が広がるな。


「ねえねえ、私には何か仕事はないのかしら?」

「アリサさんというよりか、妖精さんたちはノースウエストの警備をしてほしいと思ってます。悪い人がノースウエストに侵入してきたら、すぐに教えて下さい。みんなで対処しますので」

「あら、その必要はないわよ。私たちで対処するわ。そうね、ずっと同じ場所をグルグルと回ってもらおうかしら? それとも、登れないくらいの落とし穴に落としちゃう? うふふ」

「お、お手柔らかにお願いします」


 どうやら妖精のイタズラは、ノースウエストの防衛にもしっかりと機能するようだ。その話を聞いて、アルフレッド先生もデニス親方も、どこか納得しているようだった。

 心強い仲間が加わったと思っているのだろう。ボクもそう思う。

 適材適所。そんな種族でも、その力を最大限に発揮できる環境があるのだ。


 その日の夜は、新しい住人である、アリサさんの歓迎会になった。もちろん、ボクたちが無事に帰ってきたことへの、祝賀会も兼ねている。

 ようやくゆっくりとお酒が飲めると、デニス親方がとても喜んでいた。


「何このお酒! 革命だわ、革命。お酒の革命よ!」

「あの、アリサさんはお酒を飲んでもいい年齢なんですよね?」

「もちろんよ。私たちには、お酒を飲んではいけない年齢なんて、存在しないわ!」

「そうでしたか」


 どうやらお酒を禁止する以前の問題みたいだね。アリサさんの見た目が完全に幼女だから、どうしても大丈夫なのかと思ってしまう。

 妖精族でそうなのならば、きっとドワーフ族もそうなのだろうな。小さいころからお酒を飲んでいることだろう。


「デニス、いつの間にドワーフはこんなすごいお酒を造れるようになったの?」

「その酒を造ったのは俺たちドワーフじゃねぇ。坊主だよ」

「坊主? ああ、リディルちゃんのことね! すごいわ。お酒博士だわ。それじゃ、こっちのお酒も?」

「そうだ」

「すごい」


 お酒博士か。ちょっとその呼び方はどうなんですかね? だがしかし、機嫌よさそうにお酒を飲んでいるところに水を差すわけにもいかず、黙々と夕食を食べることにした。

 アリサさんにとっては、初めて飲むお酒や、食べ物だったらしく、一人で大騒ぎしていた。実ににぎやかだね。妖精族が集まってくれば、さらに騒がしくなるのだろう。


「このブドウ、普通じゃないわ」

「そうでしょうね。リディルくんが育てたエルフのブドウですからね」

「これも!? これはもう、あがめるしかないわね。リディル神様」

「ちょっと、やめてよね」

「冗談よ、冗談。本気でリディルちゃんが嫌がるとは思わなかったわ。人族は神様扱いされるのが好きだと思っていたのに」


 本当に悪いと思ったようで、ボクの頭を小さい手でなでなでするアリサさん。完全に子供扱いだが、見た目からすると、ボクもアリサさんもそれほど変わらないような気がする。


「確かに神様扱いされるのが好きな人もいますけど、ボクは違いますからね。普通に接してほしいです」

「謙虚なところがリディルくんのいいところであり、悪いところでもあるんですよね」

「そうだな。坊主はここの領主だからな。もう少し堂々として、使えるものはなんでも使う、くらいの気位が必要だぞ?」

「それは認めるけど、そうなるまでにはまだまだ時間がかかると思うんだよね」


 どうも人の上に立つのは苦手なんだよね。でも、もうそんなことばかり言っていられないのも事実なわけで。これから少しずつ、鍛えていくしかないな。

 アリサさんはエルフのブドウをずいぶんと気に入ったようである。ミューに負けない速度で食べていた。

 あの小さい体のどこに、あれだけのブドウが入るのだろうか。ミューもだけど。

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