第217話 妖精の能力

 アリサさんに話を聞いたところによると、少し前に世界樹さんからお話があったらしい。

 それって、お告げだよね? アルフレッド先生たちも、世界樹さんからの話でここへ来たみたいだったし。


「世界樹さんからはなんて言われたのですか?」

「この地に楽園を作るから、協力してほしいって言われたのよ。もちろん、二つ返事で引き受けたわ」

「楽園……世界樹さんは何を考えているのかな?」

「まあまあ、いいじゃない、リディルちゃん。細かいことなんてどうでもいいのよ。それよりも、今を楽しみましょう!」

「う、うん」


 なんかいいようにはぐらかされたような気がするけど、まあいいか。そのうち分かることだろう。それに今は、妖精の力を借りることができる方がありがたいからね。


「アリサさんは世界樹さんにあいさつはしたのですか?」

「まだよ。だってさっき到着したところだもの。ああ、そうだ、あとから友達もくることになっているからよろしくね。楽しいことはみんなでやらなくちゃ!」

「げ、マジかよ……」

「ヒゲもじゃは嫌みたいね?」

「ヒゲもじゃじゃなくて、デニスだ」


 どうやらこれから妖精が増えることになるようだ。警戒心が強いみたいだから、人族に捕まるようなことはないけど、ちょっと心配だな。

 でもそういえば、妖精の姿なんて、一度も見たことがないな。王城にいたときも、妖精の話は聞かなかった。


「妖精さんたちは逃げるのが上手なんですか?」

「どうしたの、急に? ああ、もしかして、私たちが悪い人族に捕まるかもしれないって思ってる? 大丈夫よ。心配ご無用。私たちは悪い人が近づいてきたらすぐに分かるし、姿を消すことができるから。こんな風に」

「わ、見えなくなった!」


 目の前にいたはずのアリサさんの姿が見えなくなった。これはすごい。確かにこの能力があれば、捕まることなんてないだろう。罠でも仕掛けられていない限り。


「そこがこいつらの厄介なところなんだよなー。姿が見えないことをいいことに、イタズラを仕掛けてくるんだ。坊主もイタズラされたくないなら、大事な物はマジックバッグに入れておけ」

「分かったよ。そうしておく」

「なーにー? デニスは妖精にイタズラされたことがあるのかしら?」

「おい、ヒゲを引っ張るな!」


 なんだかんだ言っても、なんだか仲がよさそうだよね、二人とも。

 そんな目でデニス親方を見ていると、今度はボクの髪の毛を引っ張られた。どうやら今度はボクへと対象を変えたらしい。


「なかなかいいツヤをしているわね。さすがは世界樹の守り人だわ」

「それは関係ないと思うんだけど……アルフレッド先生、世界樹さんにあいさつに行こうと思います。アリサさんも一緒にどうですか?」

「一緒に行くわ!」

「それでは私たちも一緒に行きましょう。何があったのかを話す必要があるでしょうからね」


 どうやらカリサ伯爵家であったことを話す必要があると思ったのはボクだけではなかったみたいだ。

 アルフレッド先生たちも一緒に来てくれるのならありがたい。これなら世界樹さんに間違った報告をすることもないだろう。


 屋敷を出て、すぐ隣にある世界樹さんのところへと行く。どうやらアリサさんが到着したことについてはすでに知っていたみたいだね。そしてボクたちが戻ってきたことについても。


『お帰りなさい。無事に戻ってきたようですね。アリサも、よく来てくれました』

「そんな、そんな、面白そうなことがあれば、いつだって、どこだって、駆けつけてくるわよ」


 両手を前で振りながら、うれしそうにしているアリサさん。どうやら世界樹さんからお礼を言われてうれしいみたいだ。

 やっぱり世界樹さんは色んな種族にとって、とても特別な存在みたいだね。人族はなんだか違うような気がするけど。


 世界樹さんの記述はあれど、なんだかあやふやな書き方をしてあったし、世界樹さんをあがめようとかは、一切書かれてはいなかった。どちらかと言うと、「貴重な植物なので、有効活用しよう」みたいな書き方だった。


「世界樹さんに、何が起こっていたのかをお話ししようと思います。少し長くなりますけど、いいですか?」

『もちろんですが、どうやら無事には帰ってきてはいますが、何かが起こったみたいですね』

「ええ、それなんですが……」


 そこからはアルフレッド先生たちと一緒に、カリサ伯爵家に何があったのかを話した。そして帰り道に盗賊たちに襲われたことについては、なんだかとても残念そうな反応だった。


『そうでしたか。私の手足がもう少し長ければよかったのですが』

「気にしないで下さい。アルフレッド先生たちのおかげで、だれもケガをすることなく、退治することができましたからね」

「リディルくんもちゃんと活躍しましたからね」

「リディルちゃん、私もその普通とは違うライトを見てみたいな」

「もちろんいいですよ」


 そうしてアリサさんにボクのライトの魔法を見せてあげると、ものすごく喜んでいた。しきりに「面白い使い方だ」とほめてくれた。

 ……まさか、イタズラに使ったりしないよね? そんな風に思っていると、さすがの妖精でも、危害を加えるようなことはしないらしい。それなら安心できるかな?

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