第216話 ノースウエストに到着する
トマスさんの町を出発した馬車は、ボクたちが整備した街道を快調に進んで行った。そのおかげで、お昼前にはノースウエストへたどり着くことができた。
「ようやくノースウエストに戻ってきたぞ。そんなに長くは離れていなかったはずなのに、なんだか懐かしい気がするね」
「ミュ」
「それだけここがリディル様にとっての、かけがえのない場所に鳴っているということですよ。とてもいいことだと思います」
「そうかな?」
フェロールはそう言っているけど、あまり執着しすぎると、ノースウエストから追放されるようになったときに、悲しむことになってしまう。ボクは国王陛下から任命されてこの領地を治めているだけだし、いつそうなってもおかしくはない。
でも、そんなことは世界樹さんが許さないだろうし、町のみんなも許さないと思う。
そうなれば、独立することになるのかな? 世界樹さんがそんなこと言っていたからね。そんな日が来てほしくはないけど、備えておく必要はあるのかもしれない。
馬車を止めて、馬を外したところでルミ姉さんが飛び出してきた。どうやらボクたちが戻ってきたことに気がついたみたいだ。
なんだか慌てているみたいだけど、何かあったのかな?
「坊ちゃん、ようやく帰ってきたッスね!」
「どうしたの、ルミ姉さん?」
「どうしたもこうしたもないッス。ちょっと大変なことになってるッス。早く家の中に入るッス!」
「え、ちょっと待って、何があったの!?」
ルミ姉さんに押されて屋敷の中へと入る。ノースウエストに何か問題があった? いや、それなら外へ引っ張られるか。そうなると、屋敷の中で何かが起こったことになる。
悪天候で屋敷が壊れたとかではなさそうだし、一体、なんなのだろうか。
連れて行かれたのはダイニングルームだった。そこにはチョウのような羽を背中につけた、小さい女の子の姿があった。髪の毛の色は燃えるような赤で、お団子頭になっている。
あの姿は、もしかして妖精?
「アルフレッド先生、あれってもしかして……」
「あれは妖精ですね。どこかで世界樹のウワサを聞きつけてここへ来たのでしょうか?」
「カーッ、妖精か。あまりいい思い出がないぜ」
「ちょっと、レディーに向かってそんな言い方はないでしょ!」
プンプンと怒った様子の妖精がボクたちを見つけて飛んできた。その両手は腰に当てられている。ほおも膨らんでいるね。
そのままその妖精さんはボクの周りをグルグルと飛び回った。まるでボクの姿をくまなく観察しているかのようである。なんだかちょっと恥ずかしいな。
「えっと、リディルです。妖精さんのお名前を聞いてもいいですか?」
「私の名前はアリサよ。これからよろしくね、リディルちゃん」
「よろしくお願いします。えっと、ここに住むので間違いないんだよね?」
「ええ、間違いないわ。ダメかしら?」
グッと顔を近づけてきたアリサさん。しかもちょっと下からボクを見上げる形の、完璧な上目づかいだった。なんだかその目がキラキラしているような気がする。
「もちろん構わないよ。いいですよね、アルフレッド先生、デニス親方、ニャーゴさん?」
「そうですね、部屋はまだまだたくさんあいていますし、いいと思いますよ」
「はあ、坊主がそう言うならいいが、勝手に人の部屋の物を持ち出すんじゃないぞ」
「そんなことしないわよ、ヒゲもじゃ」
「ヒゲもじゃじゃねぇ、デニスだ。ああ、ルミナの顔色が悪かったのはこのせいか」
どうやらデニス親方は色々と納得したようである。ドワーフ族にとって、妖精族は天敵なのかもしれないな。今のところ、どうしてそこまで嫌がるのかが分からないけど。
でも嫌そうにしているとは言っても、本当に嫌がっているわけではなさそうなんだよね。
本当に嫌なら拒否しているはずだ。どちらかと言えば、「ちょっと面倒なことになりそうだ」といった感じだろうか。
ルミ姉さんも顔を引きつらせているが、追い出すようなことはしなかったみたいだし。
「私も構いませんよ。妖精族にはお世話になってきましたからね」
「ニャーゴさん、それはどういうことですか?」
「妖精族は周囲の状況を把握する能力がとても高いのですよ。つまり、悪い人が自分たちの縄張りに入ってきたら、すぐに分かるということです」
「それはすごい能力ですね! これからすごく必要になりそうです」
どうやらケットシー族がこれまで人知れず身を隠すことができたのは、妖精族の協力があったからのようである。そしてこれからは、ノースウエストでもその能力が発揮されることになるのだ。
もしかして、世界樹さんがそれを見越して呼んでくれたのかな? ボクたちがカリサ伯爵のところへ行ったことで、何かあったと察知したのだろう。
このあとしっかりと話しておかないといけないな。そして世界樹さんにも、ノースウエストの防衛に協力してもらわないと。
「さすが猫ちゃんね! よく分かってるわ」
「えっと、ニャーゴです。よろしくお願いします」
猫ちゃん扱いされて苦笑いするニャーゴさん。どうやらお世話になっているとはいえ、苦手意識はあるみたいだね。さっきからヒゲを引っ張られているし。
慣れるまでには少し時間がかかるかもしれないな。
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