第215話 カリサ伯爵家の騎士に連れて帰ってもらう
地面に倒れている人たちへと視線を送る。カリサ伯爵家の騎士たちも気がついていたようで、ちょっと苦笑いになっていた。
「我々の援護は必要ありませんでしたね」
「そんなことはありませんよ。ありがとうございます。カリサ伯爵にも、ボクが感謝していたと伝えて下さい」
「承りました」
さて、この人たちはどうしようかな。できればこのままカリサ伯爵の方で引き受けてもらえるといいんだけど。トマスさんの町へ連れて帰っても、これだけの人数をどうにかするのは難しいだろう。
「あの、この人たちをカリサ伯爵のところでなんとかしてもらえませんか?」
「もちろんですとも。あとは我々にお任せ下さい。しっかりと身元を調べて、しかるべき処置を取らせていただきます」
実にいい笑顔をしているな。どうやらボクが言わなくても、最初からそうするつもりだったようである。
それもそうか。この人たちを調べれば、カリサ伯爵家を狙った人物がだれなのかも分かるかもしれないからね。
騎士たちは盗賊たちをロープでグルグル巻きにすると、そのまま引きずってから帰っていった。
ボクたちを助けにきた騎士たちの人数は盗賊たちよりも多い。連れて帰るのはそれほど難しくはなさそうだ。
「これでもう襲われることはないですよね?」
「そうだとは思いますが、念のため警戒は続けておくことにしましょう」
中断した昼食を再開する。さすがにこの状況でゆっくりと昼食を食べる気分にはならなかったので、みんなでサッとすませると、先を急ぐことにした。
盗賊に襲われるというアクシデントはあったものの、ボクたちは無事にトマスさんの町まで戻ってくることができた。
今日の宿はもちろんトマスさんの家である。そこではサリー嬢が待ってくれていた。
「お帰りなさいませ。ご無事でなりよりですわ。道中、何もありませんでしたか?」
「それが……」
言葉を濁しつつ、トマスさんに顔を向ける。盗賊に襲われた話をサリー嬢にしてもよいのか、悪いのか。
そんなボクの態度に首をかしげるサリー嬢。そしてトマスさんは、その話をサリー嬢にすることにしたようだ。
何も知らないよりも、話をして警戒してもらった方がいいと考えたのかもしれないな。
「そんなことが……本当にご無事でよかったですわ」
「みんな強いですからね。心配はいりませんよ」
「リディルくんも活躍しましたからね」
「そうなのですか!?」
「ええと、ちょっとだけですけどね」
そんなわけで、ボクが何をしたのかについても、少しだけサリー嬢に話すことになった。
なんだかちょっと照れくさいな。援護をしただけで、実際に盗賊たちを相手にしたわけじゃないんだけど。
その日はそのままトマスさんの家で夕食を食べてから眠りについた。サリー嬢はボクたちが怪しい盗賊たちに襲われたことがショックだったのか、なかなか寝つけない感じだった。
しょうがないので、ミューにお願いして一緒に寝てもらうことにした。だがしかし、それをミューが嫌がった。仕方がないので、ボクも一緒に寝ることで、その日はどうにか眠りにつくことができた。
明けて翌日。今日も朝から移動を開始して、その日のうちにノースウエストにたどり着く予定である。
トマスさんが残念そうな顔をしているが、お互いにやるべきことがあるからね。これからトマスさんは不審者の侵入に備えて、町の防備を固めることになるはずだ。
ボクもノースウエストに戻ってからは、念のためそうしてもらうつもりである。
きっとみんなのことだから、ボクが襲われたことを話すだけで、いい感じの防備を整えてくれるはずだ。
「トマスさん、お世話になりました」
「リディル様、お世話になったのはこちらの方ですよ。何から何まで、ありがとうございました。私に何かできることがあれば、なんでも言って下さい」
「それでしたら、近いうちに、この町から領都まで続く街道を整備したいと思っているので、その許可をもらえないでしょうか?」
なんでも言ってくれとのことなので、遠慮なく、これからやろうと思っていることを話した。ボクの考えを聞いて、目を点にしたトマスさん。なんか変なこと言っちゃったかな?
「本当にそれでよろしいのですか? 本来なら、私とカリサ伯爵様との間で進めるべきことだと思いますけど」
「もちろん構いませんよ。その方が短期間で整備することができると思いますし、お金もかかりませんからね」
「分かりました。よろしくお願いいたします。そのときは私にも声をかけて下さい。できる限りの支援をさせていただきますので」
ガッチリとトマスさんと握手をする。これで決まりだ。ノースウエストに戻って一段落したら、さっそく街道の整備を始めようじゃないか。そうすれば、ローランドくんと、もっと気軽に会えるようになるかもしれない。
「リディル様、行ってしまうのですね」
「サリー嬢、そんな顔をしないで下さい。道は整えてありますので、いつでも遊びに来て下さい。待っていますからね」
「ミュ!」
そうだ、とでも言うかのようにミューが声をあげた。それを見て、沈んだ表情になっていたサリー嬢の顔が明るくなる。
「はい。近いうちに、遊びに行かせていただきますわ」
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