第214話 昼食を狙って

 昼食を食べるべく、みんなで準備を始めたところでそれは起こった。


「ミュ!」

「ミュー?」

「どうやら現れたみたいですね。リディルくんたちは馬車へ戻って下さい」

「分かりました」


 ミューを連れて、急いで馬車へと戻る。トマスさんも一緒だ。トマスさんが乗っている馬車よりも、デニス親方が用意してくれた、こちらの馬車の方が丈夫に作られているみたいだからね。


 デニス親方とルミ姉さんが、こんなこともあろうかと準備してくれた馬車である。窓も特注品みたいなので、よほどのことがない限り、割れたりはしないらしい。まるで防弾ガラスのようである。


 ボクたちが馬車の扉を閉めたところで、何者かが襲いかかって来た。

 盗賊のようだけど、それにしてはずいぶんときれいな格好をしているな。口元を布で隠しているみたいだけど、ただの盗賊なら、顔を隠すなんてことはしないはずだ。

 顔を見られても問題ないだろうからね。


 この世界にはまだ写真なんてものはないのだ。人相書きは手書きなので、描いた人によって大きく変わってくる。つまり、顔がバレてもすぐには捕まらないし、遠くまで逃げてしまえば問題ないのだ。


 そのため、盗賊のほとんどはその場に定住しないで、あちこちに動き回るそうである。

 ハラハラしながら外の様子をうかがう。戦いは始まっているようで、すでに数人の盗賊が地面に転がっていた。


 すごい、もうこんなに倒しているんだ。

 でもそれはそうかもしれない。こちらは精霊魔法を使えるからね。魔法を使えない人たちでは、どうにもならないだろう。


 ボクもみんなの援護をするべく、盗賊たちの目元辺りを確認する。

 アルフレッド先生たちにの目がくらまないように、一定方向に光が進むように気をつけて。


「ライト!」


 次の瞬間、盗賊たちの目元が直射日光が当たったかのように白くかがやいた。


「な、なんだ!? 目が、目が!」

「目が見えない! どうなっている!?」

「おい、何が起きたんだ!」


 その直後、怒号が飛び交った。その大きな声は、多少の防音効果があるはずの馬車の中でも、しっかりと聞き取ることができた。ちょっと怖いな。


「ミュ」


 そんなボクの心理状態を察したのか、ミューがモフモフの体を押しつけてきた。そんなミューをなでながら、状況を観察する。

 目が見えず、やみくもに剣やナイフを振っていた盗賊たちは、一人、また一人とアルフレッド先生たちによって倒されていった。


「こんな話、聞いてないぞ!」


 その声を最後に、辺りは静かになった。どうやら決着したようである。見たところ、だれもケガしていないみたいだね。


「ミュー、もう大丈夫そうかな?」

「ミュ」


 首を縦に振るミュー。どうやらもう大丈夫なようである。先ほどから青い顔をしていたトマスさんの表情も、ボクのその言葉でよくなってきているようだ。

 勝手に馬車の外に出るのはまずいかな? でもみんなのことが気になるし。


 それにミューがうなずいてくれたからね。きっともう安全なのだと思う。

 そう思ったボクは、馬車の扉を開けて外へと出た。

 やはり戦いは終わっているようで、そこには何人もの盗賊らしき人たちが転がっていた。


 死んでいる人はいないみたいだね。もしかして、ボクが見ているから手加減したのかな? そんな危ないこと、しなくてもよかったのに。


「大丈夫ですか?」

「ええ、リディルくんのおかげで、思った以上に簡単に片づけることができましたよ」

「さすがに目が見えねぇとどうにもならないからな」


 ガッハッハとデニス親方が笑っている。その向こうでは、フェロールが盗賊たちのマスクを外して、何やら確認を行っていた。

 普通の盗賊じゃないよね。そのことは、世間をあまり知らないボクにだって分かるぞ。


「フェロール、何か分かった?」

「詳しくは分かりませんが、おそらくどこかの騎士、もしくは傭兵でしょうな」

「やっぱりそうなんだ」

「リディル様も気がついておられましたか」


 さすがのフェロールでも、どこのだれなのかまでは分からなかったようである。

 さて、あとはこれからどうするかだな。このままこの人たちをここへ置いて行くわけにもいかないだろうし。


 そんなことを思っていると、周囲が再び騒がしくなってきた。

 一体、何事? でもミューが騒いでいないことから、やって来たのはボクたちの敵ではないみたいだね。

 あれはもしかして。


「どうやらカリサ伯爵家の騎士のようですね」

「そうみたいですね。あの掲げてある旗についてる家紋は、カリサ伯爵家の家紋です」

「坊主はよく覚えているな。俺には分からなかったぜ」

「一応、これでも王子様だからね。その家の家紋は覚えるようにしているよ」


 みんなと話しているうちに、騎士たちの姿がどんどんと大きくなってきた。そして向こうも、ボクたちの姿を確認できたようである。その進行速度が緩やかになった。

 その中でも、立派な鎧を身にまとった人が、数人の騎士と一緒にこちらへとやって来た。


「リディル王子殿下、ご無事でしたか! 盗賊の集団がこちらへと向かったと聞いて、駆けつけて参りました」

「助かりました。この通り、無事ですよ。この人たちをどうしようかと思っていたところです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る