第213話 あいさつを済ませる
翌日、ボクたちはカリサ伯爵にお礼を言うべく、再び屋敷を訪れていた。事前にトマスさんが連絡を入れてくれていたおかげで、スムーズにあいさつをすることができた。
「そうですか。やはり今日、お帰りになるのですね。ノースウエストのこともありますし、仕方がないのでしょうが、残念です」
「そう言っていただけてうれしいです。今後も領都を参考にしたいと思っているので、またこちらへうかがいたいと思ってます」
「いつでもお待ちしておりますよ、リディル王子殿下」
カリサ伯爵と握手を交わす。これでいつでもここへくることができるようになったぞ。ノースウエストの運営で行き詰まったら、まずはカリサ伯爵に相談することにしよう。
次はローランドくんがやって来た。
「今度、ノースウエストに遊びに行くからな」
「待ってるよ。でも、ちゃんと体を元通りにしてからだよ」
「分かってるって。ありがとう、リディル王子殿下」
「お礼なんていらないよ。困ったときに助けるのが友達でしょ?」
「そうだな。リディル王子殿下が困ったときは遠慮なく言ってほしい」
「もちろんだよ」
今度はローランドくんと握手を交わす。ようやくできた、ボクと対等な友達。お互いに距離があるのがとても残念だ。領都までの道をしっかりと整備すれば、一日で行けるようにならないかな?
カリサ伯爵家の人たちに見送られて、ボクたちは出発した。そのまま街道へ向かい、ノースウエストを目指す。
帰りはそれほど急ぐ必要はない。無理をせずに、途中の町で一泊してから帰ることにしている。
狙われているかもしれないからね。それもあって、帰りに野営をするのは危険だと判断した。
カリサ伯爵が護衛を出すと言っていたんだけど、丁重にお断りした。カリサ伯爵家は今、犯人特定と、原因究明のために、猫の手も借りたいほどの忙しさのはずだ。
それなのに、ボクたちにその貴重な人員を割いてもらうわけにはいかない。
その日は問題なく、予定していた町まで到着した。宿屋はいつもトマスさんが領都へ向かうときに利用しているところらしい。
トマスさんが言うには、この町で一番いい宿なのだそうだ。もちろん、領都で泊まった宿屋よりも、少し見劣りはするけどね。
「一般的な宿屋はこんな感じなのか。ノースウエストにある宿屋にも、お金持ち用の部屋を準備した方がいいかもしれないね」
「それがいいかもしれませんね。今のところは大丈夫でしょうが、将来的にはそういった方々も訪れるようになるかもしれませんからね」
フェロールがすかさずメモを取ってくれている。ノースウエストの将来を見据えて、なるべくムダのない開発をしていきたいところだね。
「今のところは問題なさそうだね」
「そのようですな。ですが念のため、食べ物には気をつけていた方がいいでしょう」
うなずくみんな。宿屋の主人には悪いけど、そうさせてもらおうかな。トマスさんは「鑑定の魔道具」を持っているので、ちゃんと確認してから食べてくれるはず。
ボクたちも鑑定の魔道具を持っているので問題なし。
そうして鑑定の魔道具で確認しながら夕食を食べた。明日は朝から出発して、トマスさんの町で一泊してから、ノースウエストへ向かう予定だ。
「何か仕掛けて来るなら、明日になるか?」
お酒を飲みながら、デニス親方がアルフレッド先生へそう問いかけた。お酒を飲みかけていたアルフレッド先生がその手を止める。
アルフレッド先生もデニス親方と同じように、お酒を飲んでも酔わないよね。やはり種族の違いなのか。
「そうでしょうね。ノースウエストへ戻れば、今度はいつ、私たちがノースウエストの外へ出るか分かりませんからね」
「デニス親方、それって明日、盗賊に襲われるってこと?」
「ああ、そうだ。盗賊と決まったわけじゃないけどな。どこかの騎士団かもしれねぇ」
「うわ」
騎士団とか、すごく嫌な感じだね。大丈夫なのだろうか? でも、みんなの顔は落ち着いているんだよね。きっと大丈夫なのだと思う。アルフレッド先生もデニス親方もフェロールも強いみたいだから問題ないよね。もちろんミューも強いのだろうし。
「ミュ」
「もしそうなったら、ボクもみんなを援護するからね」
「それではリディルくんには、相手の目くらましをお願いしましょうか」
「あれは強力だからな。間違いなく、相手の動きを封じることができる」
腕を組んでデニス親方がうなずいている。確かに今ボクができる防衛手段としては強力だからね。ボクもみんなの役に立つことができそうだ。
願わくば、そんなことにはならないでほしいんだけどね。
翌日、出発の準備を整えたボクたちは、昨日と同じようにトマスさんの馬車を先頭に進み始めた。
道中が危険になりそうなことは、もちろんトマスさんにも話している。それでもトマスさんは先頭を行くと譲らなかったのだ。
トマスさんの馬車には護衛の人たちがついているし、その人たちが時間をかせいでいる間にボクたちが向かえば、多分大丈夫だろうとは思うけど心配だ。
「フェロール、何かあったらすぐに教えてよね」
「分かっておりますとも」
フェロールが苦笑いしている。ちょっとしつこかったかな? でも、このくらいしておかないと、安心して馬車の席に座っていられないのだ。
しかし、ボクの心配とは裏腹に、午前中は何事もなくすぎていった。
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