第212話 宿で一休みする

 案内された部屋はしっかりと調度品で整えられた部屋だった。さすがにカリサ伯爵家の部屋ほどではなかったけどね。

 ノースウエストにある、ボクの屋敷の部屋と同じくらいかな? ああでも、調度品の量はこの部屋の方が多いけど、ボクの部屋にある物の方が質は高そうだ。


 それもそうだよね。ボクの部屋にあるのは、エルフさんたちがボクのために丹精込めて作ってくれた物ばかりなのだから。最高品質の逸品なのだ。王城でも見ることはできないだろうって、いつかフェロールが言っていた。


 部屋に着いたボクたちは荷物を下ろしてから服装を緩めた。夕食の時間までにはまだ時間があるし、ゆっくりとしておこう。


「ミュ」

「ミューもお疲れ様。ブドウ、食べる?」

「ミュ!」


 マジックバッグに入れていたブドウを出してミューに食べさせてあげる。マジックバッグに入れてある冷蔵庫から取り出した物なので、ちゃんと冷えていて、おいしい状態を保っているぞ。


 ミューがおいしそうにブドウを食べているので、ボクも一緒に食べることにした。

 うん、さすがはエルフのブドウ。とってもおいしい。これに値段をつけることになれば、きっととんでもない値段になるんだろうな。


「リディルくん、明日はどうしますか?」

「予定通りにノースウエストへ帰ろうかと思います。その前に、カリサ伯爵のところへ行って、あいさつをすませておきたいと思います」

「分かりました。そうすることにしましょう」


 領都でできることはこれで終わりだね。あとはノースウエストまで無事にたどり着ければいいんだけど。


「フェロール、カリサ伯爵家を狙ったのがだれなのか、分かった?」

「現在、調査中ですが、どうやら領都周辺の貴族ではないみたいですね」

「カリサ伯爵領って、そんなに魅力のある領地なんだね」

「うーん、それはどうでしょうか?」


 考え込むフェロール。アルフレッド先生も考え込んでいるな。分からないのはボクとデニス親方、ニャーゴさん、ミューのようである。どうやら分からなかったのはボクだけじゃなかったようだ。


「その感じだと、そこまでの領地じゃないみたいだな。そうなると、狙いは別にあるってことか」

「ああ、なるほど。そうなりますね」

「そうなんですか?」

「ミュ?」


 デニス親方とニャーゴさんが納得したかのようにうなずいている。別の狙いか。それってもしかして、ボクのことだったりするのかな?

 まさか、追放だけでは安心できないから、ボクを消そうとしているのかもしれない。


「気をつけて帰った方がよさそうですね」


 アルフレッド先生が眉間にシワを寄せながらそう言った。


「そうだな。貴族のところの坊主が元気になったことが、相手側に気づかれているかもしれねぇ」

「少なくとも、リディル様の魔法薬を使ったことで、呪いが術者に跳ね返っていることでしょうからね。十分にあり得そうですよ」


 そうだった。ボクの作った魔法薬は特別な力を持っているんだった。跳ね返された呪いはどうなったのかな? ローランドくんの様子から、かなり強い呪いだったと思うんだけど。呪いをかけた人物は大変なことになっているかもしれないな。


「アルフレッド殿の言う通りですな。行きよりも特に気をつけて帰るべきでしょう」


 フェロールの顔が険しいな。どうやら帰りに何かが起こる可能性が高いみたいだ。ボクも気を引き締めておかないといけないな。

 その日の夕食から、厳重警戒で食べることになった。


 まずは出された物を鑑定の魔道具でしっかりと確認する。出された飲み物には手をつけず、自分たちで持ってきたお酒やジュースを飲むことにした。

 これなら食べ物に万が一毒が入っていても安心だね。それに、ニャーゴさんがいつでも使えるように、解毒剤を準備してくれているのだ。万全の態勢である。


「カリサ伯爵家がまた狙われる可能性もありますよね?」

「当然、あるでしょうね。ですが、しばらくはカリサ伯爵も厳重に警戒すると思います。そう簡単には同じようなことは起こらないでしょう」

「そうですよね。伯爵家ですからね。防衛手段はちゃんとありますよね」

「呪いを遠くの相手へ飛ばすのは簡単じゃないはずだ。たぶん、手伝ったやつがいるはず。そいつを見つけ出すだろうし、そうなれば、同じようなことは起こらないはずだぜ」


 自分のマジックバッグから取り出した薫製肉をかじりながら、デニス親方がそう言った。

 ボクも気をつけないといけないな。世界樹さんの守りがあったとしても、うっかり呪いのアイテムを触ってしまったら大変だ。

 サリー嬢と同じことをされたら、きっと引っかかると思う。


 この中で一番危険なのはボクだろうな。一人で出歩くことはやめた方がよさそうだ。うっかり触ってしまったなんてことにならないようにしないと。


「カリサ伯爵に追加の魔法薬を渡しておいた方がいいですよね?」

「そうですね、今後も有効的な関係を築きたいのであれば、渡しておいた方がよいと思いますよ」

「カリサ伯爵家とはいい関係を築きたいので、そうします」


 カリサ伯爵家には今後もお世話になると思う。ボクと同じ年齢くらいのローランドくんとはいい友達になれそうだし、ノースウエストのさらなる発展のためには、流通経路が必要だからね。


「それでは帰ったら、さっそく追加の魔法薬を作らないといけませんね」

「魔法薬を届けるのは、フェロールにお願いしていいのかな?」

「お任せ下さい。さすがにもう一度、領都まで足を運ぶのは大変ですからね」

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