第211話 アドバイザーを雇おう
魔道具店に引き続き、お酒を売っているお店から無言で出たボクたち。今日はそのまま宿へと向かうことにした。
案内してくれるのはもちろんトマスさんである。ボクたちが乗っている馬車は、トマスさんが乗る馬車を先頭にして、大通りを進んでいた。
「デニス親方、トマスさんの町で売られていたお酒はどうだったのですか? 確か、たくさん飲んでましたよね」
「ああ、飲んだな。あのときは普通に飲めたぜ? だが値段が……今にして思えば高かったんだろうな」
デニス親方の目がちょっと遠くなっている。デニス親方は人族の町へ行く機会はあまりなかったみたいだからね。そこで売られている物の価格が高いのか、安いのか、までは分からなかったようである。
「そうでしたか。それなら私も一緒について行くべきでしたね。多少は人族の間で売られている物の値段が分かりますから」
「こりゃ、色々と問題がありそうだな。ノースウエストにいる、ドワーフやエルフにも、物の値段については話しておいた方がよさそうだ。そうでなければ、とんでもない値段で売ることになるぞ」
確かにデニス親方の言う通りだと思う。ウワサを聞きつけた商人が安く仕入れて、高く転売する、なんてことが当たり前のように起こりそうだ。
もうけはなるべくみんな平等にしたいからね。だまされないように、しっかりと言い聞かせておく必要があるだろう。
「こんなときに、色んな物の値段を知っている人がいてくれたらよかったんだけどな」
「それなら、トルネオ殿にお願いしてみるのはどうでしょうか? 相応のお金を支払えば引き受けてくれると思いますよ」
フェロールがそう提案してきた。なるほど、アドバイザーとして、トルネオさんを雇うのか。いい考えかもしれないね。少なくとも、ボクたちよりかは物の値段に詳しいはずだ。
そのうち自分たちでも情報を仕入れられるようにするつもりだけど、それにはまだまだ時間がかかりそう。
「いい考えだと思う。ノースウエストに帰ったら、さっそくトルネオさんにお願いしてみよう」
「そうだな、それがいいな。俺たちだけじゃ、限界がある」
「そうしましょう。私たちはあまり人族と関わりを持たないように生きてきましたからね。どうやらそのツケが回ってきたみたいです」
アルフレッド先生が困った顔になっている。ツケだなんて。そんなことないのに。人族と関わりを持たないようにしたのには、ちゃんとした理由があるはずだからね。だからアルフレッド先生がそんな顔をする必要はないのだ。
「そんなことはありませんよ。ボクがもっと周りの人たちとの関わりを持っていれば、こんなことにはならなかったはずですから」
「それを言うのであれば、その役目は私が担うべきですな。リディル様よりも、自由が利く身でした」
「フェロールには別の仕事があったんでしょう? 市場調査なんて、商人でもなければやらないよ」
なんだかみんなが残念な気持ちになりつつあるな。この悪い流れをなんとか断ち切らないといけない。どうしたものか。
そう思ったのはボクだけではなかったみたいで、アルフレッド先生もデニス親方もニャーゴさんも、みんなが苦笑いをしていた。
今さらそのことを悔やんでもどうにもならないからね。そうであるならば、前だけを向いて進むことにしよう。
「これはなんとしてでも、トルネオさんに協力してもらわないといけないね。錬金術の道具を優先的に販売するのでどうかな?」
「そうですね。他にも、ノースウエストで作られた商品全般を、優先的に買えるようにしておきましょうか」
「仕方ねぇか。酒も、一部、提供しよう」
「ミュ」
そうして今後の方針が決まったところで、宿へと到着したようである。馬車が大きな建物の前で止まった。
どうやら大通りからは少し離れているみたいだね。ここなら静かで過ごしやすそうだぞ。
「リディル様、ここが本日宿泊する宿になります」
「すごく立派な建物ですね。これなら貴族が泊まるのもうなずけます」
「そうでしょう、そうでしょう。上の階層に行くほど、豪華な造りになっているのですよ。もちろん、リディル様たちのお部屋は最上階になっております」
至れり尽くせりだな。お金はどこから出てきたのだろうかと思ったが、おそらくカリサ伯爵からだろう。あとでお礼を言っておかないといけないね。
馬車から降りて、改めて宿を見る。
ノースウエストに建設した宿屋とは違い、石造りの建物だった。これだけ石を積むのは大変だっただろうな。それだけに、丈夫で長持ちするのかもしれないけどね。
三階建ての建物だが、横がすごく長いみたいだ。どうやら奥にも続いているらしい。
建物に入ると、すぐに宿屋の人たちが出迎えてくれた。
「ようこそおいで下さいました。支配人をやらせていただいております」
「今日はお世話になります」
「ゆっくりと疲れを落としていって下さい」
事前にカリサ伯爵からも話が行っているみたいだ。支配人だけでなく、従業員たちもそろってあいさつをしてくれた。
一日しか泊まらないのにこの待遇。なんだか申し訳なくなってくるな。
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